第19話 必ず
「……俺の級友の名前は、フガクというリザードマン種だ」
フガクの姿を確認した俺は、二人にそのことを伝える。
「怪しいな、シレトのパーティーはそのフガクくん含め、全滅したんだろ?」
ライオネルの言う通りだ。
俺とミラノ、クロウリーにフガクは死神ジャック達に全滅させられた。
フガクにだけ復活の魔法を使った? 何故?
「考えてもしょうがないから、ここは本人に聞く。だからもし、戦闘になったとしてもフガクだけは極力生かしておいて欲しい」
「難しい注文ばかり寄越すな、お前は」
ライオネルはそう言うと、後頭部に右腕をやって。
「今回の件が終わったら、シレトは私と混浴だな。背中でも流して労ってもらう」
「別にいいけど、あの街に混浴できる施設なんてあったか?」
「なかったら作れ」
無茶を言うのはお互い様だと思った。
「私は植物系モンスターと、飛行系のハーピーの相手をするよ。マリアはカニバルアントを頼んだな」
「ライオネル、今回の相手は舐めて掛からないでくれ。下手したら全滅だ」
夜闇の中、大地に生えた草をぎゅっぎゅっと踏みしめながらオークの居場所に近づいている。不幸中の幸いだったのは、相手の顔ぶれの中に死神ジャックの姿が見えないことだった。
「向こうも俺達に気づいたみたいだ、ゆっくりとだけどこっちに来てる」
「本当に? 私達はまだ二キロぐらいしか歩いていませんよ?」
マリアはその情報を疑うが、事実だ。
どうやって気付いたかは知らないが、オークは巨体を起こし、俺達の方向に直進している。オーク達は周囲に強者の臭いを放ちつつ、他のモンスターを一切近づけなかった。
「この様子で行けば、接敵は夜だな。二人とも夜目は慣らしておいてくれよ」
奇妙な光景だ、通説だと仲間意識を持っているモンスターは居ても、それは同種族間の話であって、ふつうは別種との間に友好な関係を築かない。だから、奴らを統率しているのは圧倒的な恐怖。
自分よりも遥かに強い存在による、束縛だった。
ユニーク種ぞろいのモンスターが、横に並んで迫る光景はこの先一生お目に掛かることはないんじゃないか? ふと、脳裏に達成感のような安堵を覚える。俺はようやく、その相手と対峙するのだと。
会いたくて、会いたくて、夜も満足に眠れないほどに――殺したかった相手だ。
気が逸る、神によって宿命づけられた約束の時が訪れるその瞬間に。
想像するだけで興奮が抑えきれなかった。
そして――対極的な二つの勢力が、お互いの姿を視界に捉えると。
「……行くぞッ!!」
俺とライオネルは戦線を押し上げる形で走り出し、マリアが後方につく。
俺が右に展開すると、オークとフガクが俺の方へと誘われた。
先制したのは後方についていたマリアの広域魔法だ。
「アブソリュートスロウ!」
マリアは、俺達の前方五百メートル圏内に時空魔法の一つを使い、敵の動きを弱体化させていた。時空魔法を使える存在はSランククラスにもいなかっただけに、不意なる僥倖に勇みつつ先ずは例のオークの首を獲りに向かった。
しかし――
「踏みとどまれ、シレト!!」
敵の一角だったフガクが叫び、俺はとっさに突進攻撃をやめる。
一転して距離をとった俺を、オークは不思議そうに見詰めた後、嗤っていた。
「フガク! どうしてお前がそこにいるんだ!」
「……助けて欲しい、どうやら俺は、今の俺は寄生されているみたいなのだ」
寄生種のモンスターに身体を支配されているのか、それなら。
「とにかく、そのオークに近接攻撃は駄目だ。そいつの能力は必中、例え時空魔法を掛けようとも――ッ、避けろ!」
言葉とは裏腹に、フガクは太刀による攻撃を繰り出した。
フガクの能力は短距離における転移だ、これはSランククラスでも俺ぐらいしか知らない。フガクに寄生しているモンスターはその能力を使い、背後に転移し切り伏せるのだが、それは俺の幻影だった。
「……さすがは、化け物揃いのSランククラスの中でも、怪物と言わしめたお前だ」
「フガク、とりあえず口が利けるならここに居るモンスターの能力について教えてくれ」
そう言うと、フガクは瞼をつむり、たどたどしい声音でモンスターの能力を説明した。
「オークの能力は必中、半径十メートル以内であれば、例え無数に群がる蠅だろうと一撃で落として見せる。次に植物系の奴の能力は耐性強化、ありとあらゆる属性の耐性を持っている、しぶとい個体だ」
植物系のオチューは本来、火炎属性にめっぽう弱い。
あの時火炎ブレスで倒せなかったのは、そういう背景があった。
とすると、火炎系魔法を得意とする、片腕の魔法剣士は今頃――
「クソ! 何でお前そんなに我慢強いんだよ!」
「――」
「しかもなんでそんな逸物みたいな奴を一杯持ってるんだよ!」
ライオネルは空を飛び回り、オチューの触手から逃れるのに必死な様子だった。
「カニバルアントの能力は何だ!?」
「奴らの能力は、分裂、倒しても倒しても分裂する」
それはそれで、対処出来る相手は限られる。
マリアが攻撃系の広域魔法を持っていれば、可能性はある。
「シレト、このことを、王国に、しらせるんだ。そうすれば」
「それは出来ないフガク」
「?」
寄生種に乗っ取られているフガクは口から白濁としたよだれを垂らし、片眉をひくつかせている。どうやらフガクは言語能力すらも、寄生種に侵され始めているみたいだ。
「……ただ、これだけは言える――必ずお前を助ける」
そう言うと、フガクは意識を失ったかのように身体を脱力させていた。
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