第4話 理由
リザードマンの遺跡の最深部の部屋で拉致された生徒を発見したのはいいが、俺達は誰かの策謀にはまり、巨大な落とし穴に呑み込まれてしまった。すぐに地面に到達しない所を見るに、かなり深い穴だ。
「みんな俺に捕まれ!」
「っ、わかった! もうちょっとこっちへ来い!」
ミラノを筆頭に、フガクも器用に俺の傍により、身体の一部に取りついた。
「クロウリー! 後はお前だけだ! 弓に紐を引っ掛けてそれを寄越すんだ!」
と呼びかけても、クロウリーは無反応だった。
怪我でもしたのか? 様子を覗いたくても、クロウリーのフードマントのせいで見えない。
次第に地面が近づいて来て、このままだとクロウリーは激突死してしまう!
「クロウリーッ!」
「……」
「クソッ! 限界だ」
限界を気取った俺は、浮遊能力を持っていたモンスターの力を使った。
俺と、俺にしがみついていたミラノとフガクはゆっくりと地面に降り立ったけど。
クロウリーだけは、やはり地面に身体を強く打ち付けてしまったみたいだ。
「おい! 平気かクロウリー!?」
彼のもとに駆け寄ろうとしたミラノの肩を掴み、制止する。
「ミラノ、盾を取れっ! 周囲を見てみろ、ここはモンスターの巣窟だッ!」
そこでミラノも周囲を見渡し、状況を把握したようだ。
「シレト! 我々は罠に嵌められたのか!?」
「だとしても、一体誰に……」
フガクは俺達を罠に嵌めた人物を詮索している様子だったが――ッ!
モンスターの一部が考える暇も与えず、フガクに攻撃を仕掛けていた。
「く、強い」
次に、植物系のモンスターがミラノに向けて触手攻撃を仕掛ける。
「っ――重い、シレト! このままでは我々は全滅してしまうぞ、なんとかしろ!」
Sランククラスの中でも膂力には自信がありそうなメンバーが、力比べで負けている。それを見るに今回の敵はかなり攻略難易度の高いモンスターだと察する。もしかして全部ユニークモンスターだったりするのか?
「ミラノ、それからフガク、二人は連携して確実に仕留めてくれ。俺は
俺の能力はモンスターに肉薄しただけでそのモンスターの能力を吸収すること出来るチート能力だ。最初は評価されなかった難物だが、めげずに色んなモンスターの能力を取り込み、今では色々と出来るようになっていた。
「――火炎!」
のブレスを吐き、植物性モンスターを先ずは弱らせる。しかし、赤色した植物性モンスターは火炎をものともせず、燃やされた種子を使って反撃して来たのだ。それに対抗すべく水流ブレスを吐けば、植物性モンスターは身体の一部を超成長させ、触手を倍増させる。
こんなモンスターに今まで会ったことない――それを悟った俺はモンスターに突進した。モンスターは触手を伸ばし、俺の足を掴み、勢いに任せて壁に放った。
この時点で俺はモンスターの火炎耐性と水流超回復を吸収していた。
周りに水流のバリアを張り、身体のダメージを超回復させる。
「はいはい、皆さん、お遊びはそこまで――早く彼らの息の根を止めなさい」
「……お前は誰だ」
さきほどまで居なかった長身痩躯の仮面をつけた人間が低空を浮遊していた。
「これはご紹介が遅れました、私は暗殺請負人やっております、死神のジャック」
「ああ、聞いたことあるな。死神ジャックに依頼すれば必ず暗殺してくれると。つまり俺達も、誰かに依頼されて暗殺されかかってるってことだな? 誰の依頼だ!!」
激昂するよう吼えると、死神は不快な嗤い声をあげる。
「あちらをご覧ください、貴方のお仲間である騎士見習い殿の最期って奴です」
言われ、背後を振りむくとミラノはオーク種のモンスターに手足を絞められていた。
「ぐああッ、アアアアアアァアッ!」
「ミラノッ――!」
「シレト、っ、見ないでくれ」
ミラノを拘束していたオークは力任せに尖った岩に全力で彼女の身体を打ち付けると――ミラノは背中から腹部を岩に貫かれ、おびただしい血を噴き出し、喀血を繰り返したあと、動かなくなった。
「これで彼女の魂は四十九日後にあのお方の許へ召されるでしょう。続きましてあちらをご覧ください」
死神が指した方向には、動かなくなったクロウリーの死体に昆虫系モンスターが群がり、死肉を貪っていた。
「んー、あのまま死体を食い荒らされたら、あなた方ご自慢の復活の魔法も使えませんねぇ」
「ジャックと言ったな、俺達を殺して、何のメリットがあるんだ!」
殺意の籠った憎しみから聞くと、ジャックはまたしても不快な嗤い声をあげる。
「カ、カ、カ、カ。我々は一応人類と敵対する勢力ですからね、人間の中でも特に優秀なSランククラスの生徒がいなくなるのは大変な功績の一つなのです。さらに依頼人からは莫大なお金まで貰える! これほどに嬉しいことはありませんよ、カ、カ、カ、カ、おっと」
すると、敵の一匹を打破したフガクが死神ジャックの背後から奇襲を仕掛け、俺の隣に居並んだ。
「シレト、お前だけでも逃げられないのか?」
「……逃げられないだろ、こんな状況じゃ」
「ならばどうする?」
どうすることも出来ない窮状に陥り、俺は憑き物が落ちたようだった。
少しだけ、異性として好きになり始めていたミラノはオークに血肉を貪られているし、苦楽を共にし、同時期にSランククラスに昇格を決めたクロウリーは昆虫に食べられ、唯一生き残ってるフガクも万が一生存することができたとしても、国からもリザードマンからも捨てられる未来しかないだろう。
俺は悔しい。
前世では夢も希望もなくて、今生でもその概念が希薄だったけど。
王立学校のトップクラスの頂点に立てるまでの存在になれたのに、誰一人として救えなかった。死ぬことには慣れている、けど、俺を頼ってくれた三人を救えなかったことが何より悔しいんだ。
「――人間よ、私はその目が酷く嫌いでね」
死神のジャックはいつの間にか間合いを詰めていて、俺とフガクの首を両手で締め上げていた。
「その憎しみに満ちた目はなんだ? 君達人間がこれまで終わらせて来た数多の命に比べれば、君一人の命など安いものだ、その君がッ!! 我々の怒りを無視し蔑ろにし、憎しみを覚えるというのかッッッ!!」
――ゴキ、と嫌な音が左からあがった時、フガクの両手は下に垂れ下がっていた。
「……だが、君は中々に才能がある。事前に聞いた話だと、モンスターの能力を吸収することの出来る特殊な力を持っているそうだね? いっそのこと、我々の仲間にならないか?」
俺はジャックの打診に親指を下げて反抗した。
「それでは仕方がないなぁ、さようなら――」
奴が別れの言葉を口にすると同時に、俺は上体と下半身を二つに切り裂かれた。
激しい痛みでどうにかなってしまいそうな所を、ずっと堪えていた。
「カ、カ、カ、カ、人間にしてはしぶといね。どうせ最後だろうし教えてあげるよ。私達に今回の暗殺の依頼を出したのは――君の朋輩、つまりSランククラスの人間だよ」
――っ……どうして、一体誰が……何故。
意識が薄れる中、ふつふつと、俺達をこんな目に遭わせた奴への感情が沸き上がる。
それは殺意。
それは憎しみ。それは妬み。それは嫌悪。
そしてそれらは全て――俺の復讐譚の理由だった。
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