第286話 狩りの街から逃げてきた冒険者


 ――翌朝。


 馬車は『狩りの街』へ向かって出発する。

 ガッシュさんの話では、昼頃には到着する予定だ。

 今日も俺はラーシェスと御者台に並び、心得を教えながら、馬車は進む。


 しばらく馬車を進めていくと、前方から三人組の冒険者がこちらに向かって歩いてくる。

 それに気づいたラーシェスは血統斧レイン・イン・ブラッドに手を伸ばし、俺を見る。

 俺の教えをさっそく実行しているのは良いことだ。


 男性三人組のパーティーだ。

 冒険者ランクはCかDだろう。


「大丈夫。彼らに悪意はないよ」


 ラーシェスを安心させるように言う。

 彼女のこわばりが取れた。


「武器から手を放して」


 俺の言葉に、ラーシェスは血統斧レイン・イン・ブラッドに添えられていた手を放す。


「基本的に、冒険者は冒険者相手に仕掛けてこないよ」


 ラーシェスが俺の顔を見る。


「割りに合わないからね」


 怨恨や因縁がない限り、冒険者同士で揉めることはまずない。

 せいぜい、粋がる新人くらいが絡んでくるくらいだ。


「普通は、軽く挨拶して、あまり近づかずにすれ違うんだ」


 冒険者を襲うことは、メリットよりデメリットの方が大きすぎる。


「武器に手を近づけていると、警戒されて、逆にトラブルになりやすい」


 だから、ラーシェスに手を放すように言ったのだ。


 俺は軽い笑みを浮かべ、彼らに向かって片手を上げる。

 向こうも俺に手を上げてみせる。


「ねえ、ラーシェス。彼らの様子を、どう感じた?」

「うーん、なんか、疲れ切ってて、やつれてる感じかな?」


 普通だったら、通り過ぎるところだけど、男たちの様子が気になる。


「馬車を止めて」

「うん」


 ラーシェスが手綱を操る。


「ちょっと見てて」


 俺は停まった馬車から飛び降り、害意がないことをジェスチャーで伝えながら、男たちに向かって歩く。


 向こうもすぐに警戒を解いた。

 お互い、ゆっくりと歩み寄り、距離を縮めていく。


「アンタたち、『狩りの街』に行くのか?」

「ああ、そっちは?」

「出て来たところだよ」


 男は明らかに焦燥している。

 いったい、あの街でなにが起こったんだろうか……。


「悪いことは言わねえ。今、あそこはピリピリしている。行かねえ方が良いぞ」

「なにかあったのか?」

「もともと穏やかな場所じゃなかったが、つい、最近な――」


 男は苦虫をかみつぶしたような顔をする。


「【魔蔵庫貸与】って知ってるか?」

「ああ、もちろん」


 突然出て来た言葉に俺は驚く。

 【魔蔵庫貸与】なら誰よりも詳しい。

 向こうは俺が当事者だとは気がついていないようだ。


「アレのせいですっかり狂っちまった。いつ暴発してもおかしくねえ」


 男は顔を蹙め、首を横に振る。

 よっぽど嫌な思いをしてきたようだ。


「儲かるって聞いてやって来たけど、欲をかくべきじゃないって学んだぜ。やっぱり、地道に稼ぐのが一番だ」


 男はこりごりといった顔で、頭をかく。


「良いことを教えてくれて、ありがとう」

「なに、大したことじゃねえよ」


 冒険者は自己責任とはいえ、自分に損がなければ相手を助ける。

 その貸しがどうやって返ってくるか分からないから。


 俺は馬車に戻りワイン瓶を一本、男に渡す。

 受け取った男は、笑顔を見せた。


「おう。助かる。あそこじゃ落ち着いて酒も飲めなかったからな」


 軽く手を振って男たちと別れた。

 俺は御者台に飛び乗る。


「冒険者を相手するときは、今みたいにやれば良いんだよ」

「やっぱり、レントはすごい慣れてるね」

「まあ、五年もやってるからね」


 ガイたちは他の冒険者を見下して、かかわろうとはしなかった。

 だから、俺がその代わりを務めた。

 最初は俺も戸惑うことが多かったが、そのおかげで、いろいろ勉強になったし、多くの縁を持つこともできた。


「それにしても、まさか、【魔蔵庫貸与】がトラブルのもとになっているとは……」


 プレスティトさんやエムピーが『狩りの街』にいくことを勧めてきたのも理解できる。


 なにが起こっているのか……。

 馬車は『狩りの街』に向かって進む。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『狩りの街に到着する』


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