第269話 ボルテンダールとの会話(3)


「代わりにヒントをやろう」


 ボルテンダールさんは嬉しそうな口調で続ける。


「ユニークウェポンだ。【強欲】のユニークウェポン、アレは反則だのう」

「ユニークウェポンですか……」


 正直、リンカとラーシェスを羨ましく思っていた。

 俺も自分のユニークウェポンが欲しいと。


「手に入れるのを、楽しみにしておれ」

「はい。それともうひとつ」

「天使の攻撃についてか?」

「はい。天使から受けたダメージは普通の回復魔法やポーションでは回復しませんでした」

「普通の攻撃は身体を傷つける。それを癒やすのは回復魔法やポーションだ」


 ボルテンダールさんは続ける。


「天使の攻撃は身体に侵食する。だから、傷を癒やすのではなく、侵食を吸収するしかないのだ」

「どういう意味ですか?」

「今はまだ分からんだろう。ただ、分からんでも対処法はある」

「それがラーシェスの……」

「その通りだ。【魂魄浄化クレンズ・ソウル】は魔力ではなく、白魔力を用いたもの。白魔力を用いて、怪我も侵食もまとめて喰らうのだ」

「他にもその回復ができる者は?」

「もちろん、おるぞ」

「安心しました」

「そうでないと、とても天使勢力には勝てぬからな」


 他の四人の刻印者。

 早く出会えれば良いのだが……。


「あっ、もしかして、ご先祖様とフラニスさんの出会いも?」

「ああ、彼女は刻印者ではないが、天使との戦いに巻き込まれてしまってな」

「ということは、天使は一般人も襲うのですね?」

「ああ……」


 ボルテンダールさんは苦々しい顔をする。


「ともあれ、刻印者は互いに引かれ合う」

「そうだね。ボクが【御魂喰いみたまぐい】で苦しんだから、レントとリンカに出会えた」

「私も死にかけたところを、レントさんに助けてもらえました」

「そうだ。だから、あまり気にする必要はない」

「ならば、成り行きに任せるしかないと」

「いや、ひとつ、アドバイスがある」

「それは?」

「ゆかりの地だ。ラーシェスは、先代【暴食】である儂が死んだ場所で儂と出会えた。そなたらもルーツを探し、そこを訪れろ」

「ゆかりの地……」


 リンカはお花屋さんになりたかった。

 リンカは生まれ故郷が分かっている。

 しかし、俺は……。


「レントさん、どうしましたか?」

「大丈夫?」


 よほど酷い顔をしているのだろう。

 二人が心配そうに俺を見る。


「俺はルーツが分からない。俺は捨て子だったんだ……」


 ガイとミサ。

 俺は二人と同じ村で育った。

 だが、そこは俺の生まれた場所ではない。


「そうなんですか……」

「そうなんだ……」

「今まで、黙っててゴメン」

「レントさんは悪くないですよ」

「そうだよ」

「【強欲】よ。案ずるな。儂らの代にも、似たような者はいた。刻印者同士が引かれるように、ユニークウェポンもルーツも刻印者を引きつける」


 ボルテンダールさんの言葉に俺はホッと胸を撫で下ろす。

 ラーシェスが試練で成長したように、俺もルーツを辿る事で、成長できるのだろう。

 そして、今まで分からなかった俺のルーツも知る事が出来る。


 ただ、その前に――。


「次はリンカの生まれ故郷に行こう」


 リンカもラーシェスも頷く。


「アドバイスは以上だ。次は警告だ」


 三人とも、何が来るかと身構える。


「【強欲】よ。お前がギフトを授かったのは何年前だ?」

「五年前です」

「【憤怒】は?」

「三年前です」

「ラーシェスは?」

「つい、最近だよ」

「そうか……先にSSSギフトを授かったの者がいるかもしれんから、ハッキリとしたことは言えないが――」


 ゴクリと息を呑む音が聞こえる。


「天使勢力は最初の刻印者が目覚めてから、7年目に覚醒する」


 またもや、7だ。

 創世神は本当に7が好きなんだな。


「儂からは以上だ。どうか、世界を救ってくれ――」


 最後の言葉とともに、俺たちはボルテンダールさんと別れた――。


 こうして俺たちはボルテンダールの試練を無事クリアできた。

 次はリンカの故郷に行こう――そう思っていたのだが。


 街に戻ると、プレスティトさんに深刻そうな顔で告げられた。


「『狩りの街』が大変なことになってます」

「『狩りの街』?」


 どこかで耳にした気がするが……。


「マスター、エムピーもそうした方が良いと思います~」


 エムピーもそう言うなら、従った方が良さそうだけど……。


「レントさん。『狩りの街』は私の故郷に向かう途中にあります」

「なら、寄り道していくか」


 ラーシェスも頷いた。

 ボルテンダールさんが言うように、他の刻印者が俺たちのことを引きつけているのか。

 それは分からないが、俺たちは『狩りの街』に向かう事にした――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『SS エルティアの過去(1)』


お読みいただき、ありがとうございます!

今回で第10章『ボルテンダールの試練』終了です!


次は第11章『四人目の刻印者』です!

その前に、SSが入ります。



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