第268話 ボルテンダールとの会話(2)


「他にも、聞きたいことはいっぱいあるであろう?」

「ボクが覚えた【誅天我討パニッシュ・マイ・ヘブン】。あれを習得するための試練だったの?」

「それもひとつだな。というか、副産物だ。この試練の本当の目的は――天使との戦い方を学ばせることだ」


 やはり……。

 三人とも、ゴクリと息を呑む。


「まあ、最初の試練は儂の趣味だ。面白かっただろう?」

「うん! 謎解き、面白かったよ!」

「そうかそうか。喜んでもらえると儂も嬉しくなるのう」

「やっぱり、ボルテンダールさんも謎解き好きなんだね」

「ああ、屋敷に蔵書を遺しておいたが、今でもあるか?」

「うん! 全部、読んだよ!」

「そうかそうか」


 子どもや孫が自分と同じ趣味を持ってくれるのは嬉しいのだろう。

 一気に二人の距離が縮まった気がする。


「話を戻そうか。第二の試練は、単純に戦闘力を上がるための試練だ。まさか、三人でクリアするとは想定していなかったが、やはり、【強欲】は強いな」


 ボルテンダールさんは俺を見て、感心する。


「やはり、当時の【強欲】の持ち主も強かったんですか?」

「ああ。彼じ……アイツが柱だった。戦闘面でも、精神面でもな」


 さらっと、なにもなかったかのように言うけど、今、「彼女」って言いかけたよな。

 先代の【強欲】は女性だったのか……。


「すぐに、話が脱線してすまんな。儂の癖で、フラニスにもよく怒られたものだ」

「それで、天使とは?」


 ボルテンダールさんの顔つきが真剣になる。


「ヤツらは――敵だ。七罪の刻印者の敵だ」


 俺たちの敵――。


「なぜ、創世神が七人の人間にSSSギフトを授け、七罪の刻印を刻んだのか。それは天使たちと戦わせるため」

「天使は俺たちを敵だと認識してるんですか?」

「ああ、それが創世神がヤツらに課した使命だ」


 温厚に見えるボルテンダールさんの顔が怒りに染まる。

 それは天使への怒りなのか、それとも、創世神への怒りなのか……。


「創世神が……」

「天使勢力との戦いに勝利すること。それが七罪の刻印者に課された使命だ」

「ということは、ボルテンダールさんたちは天使たちに勝利したのですね?」

「ああ。あれを勝利と呼べるか分からんが、そなたらが居るということは勝ったのであろう」


 ボルテンダールさんにとっては過去の話。

 そして、俺たちにとっては未来の話。


「お前たちが戦った天使はレプリカ。幻影魔法で再現したものに過ぎん。本物の強さはあんなものじゃない」


 あれでも、弱化されていたのか……。


「あの、良いですか?」


 今まで黙っていたリンカが尋ねる。


「ああ、【憤怒】よ、構わんよ」

「天使たちとおっしゃいましたが、どれくらい居るのですか?」

「天使勢力――天使の数は数えきれん。ただ、それを統べる天使は7体だ」


 また、7か……。

 それに、7人じゃなくて、7体。

 ボルテンダールさんは、天使を人間扱いしていない。


「ヤツらと戦って、何を感じ取ったか?」

「イータが言ってました。天使には、SSSギフトのスキル攻撃しか効かない、と」

「ほう。ヤツをちゃんと躾けているようだな」

「うん。飴と鞭でバッチリだよ」

「そうかそうか。ならば、安心だ」


 ボルテンダールさんの場合は、イータとどんな関係だったのか。

 そして、先代【強欲】とエムピーはどんな関係だったのか。

 エムピーの黒い笑顔が脳裏に浮かぶ。


「おっと、また、話がそれてしまったな。イータの言う言葉は正しい」

「でも、私の場合は、スキルでない通常攻撃も通じてました」

「それは【憤怒】が【壱之太刀】を使用しておったからだ」

「あっ、そういう事でしたか」


 リンカは腑に落ちたという顔をする。


「じゃあ、ボクの通常攻撃は通じないの?」


 だとしたら、天使との戦闘でラーシェスは大量の魔力を消費する事になる。

 俺がどれだけ魔力を貯められるか――それにかかっている。


 もっと――もっともっと、取り立てろ。奪い尽くせ。


 黙れ。


 心の中で内なる獣が語りかけてくる。

 俺も慣れたせいか、これくらいなら軽く受け流せるようになった。


「そんなことはないぞ、ラーシェスよ。そなたの攻撃でダメージを与えられる方法はちゃんとある。安心せよ」

「そっか、なら良かった」

「俺の場合はどうなんです?」


 【無限の魔蔵庫】で使えるスキルは魔力運用に関するものだけだ。

 通常スキルは魔力で購入できるが、天使には通用しない。

 俺は、魔力供給役としてしか、戦闘に関われないのか……。


 俺の問いに、ボルテンダールさんは笑みを浮かべる。


「いや、【強欲】こそが、戦いの要となる」

「それは?」

「はは、分かっておるだろう」

「…………」

「もちろん、内緒だ」


 予想通り、教えてくれなかった。

 だが、その言葉は俺を救ってくれた。


「代わりにヒントをやろう」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダールとの会話(3)』


楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る