第267話 ボルテンダールとの会話(1)


 天使を倒した俺たちは、また、別の空間に転移した。

 留守番しているエムピーだけでなく、イータとアンガーもここには居ないようだ。

 そこは書庫のような場所で、四方の壁は本棚が並び、書物があふれんばかりだった。

 部屋の中央に置かれた重厚な机。

 その前に老翁が居た。


「よくぞ、我が試練を乗り越えたな。【暴食】よ」

「ご先祖様?」

「ああ、そうだ。先代【暴食】にして、そなたの先祖ボルテンダールだ」


 ボルテンダールさんは椅子に腰掛けている。

 人が二人座れそうな、巨大な椅子だ。

 ボルテンダールさんはその椅子からはみ出そうだ。


 なんというか、デカい。

 縦にでだけはなく、横にも。

 全身が分厚い脂肪に覆われている。


「…………」


 俺たちは絶句する。

 特に、ラーシェスは口をぽかんと開けて、信じられないものを見たと言う目つきだ。


 今までは声が聞こえただけだった。

 知性を感じさせる声で、失礼な言い方だが、この体型は想像していなかった。


「ああ、この姿か? 【暴食】の名の通り、食べ過ぎてな」

「ボクも……あんなになるのかな?」


 ラーシェスの顔に絶望が浮かぶ。

 そんな彼女の気持ちを知ってかどうか、ボルテンダールさんはフォローする。


「なに、儂も若い頃はスリムだったぞ。はっはっは」


 フォローになっていない……。


「レント、ボク、決めたよ。今日からダイエットする!」


 ラーシェスは真剣そのものだ。

 彼女の体型はどちらかというとほっそり。

 今から気にする必要はないと思うけど、俺もあの体型にはなりたくない。


 当の本人は気にした様子もなく、話を続ける。


「ところで、我が子孫よ、名前はなんと言う?」

「ラーシェス。ラーシェス・ウィラードだよ」

「おお。良い名前だな、ラーシェス。そなたにはフラニスの面影を感じるぞ」


 ボルテンダールさんは彼女を見て、目を細める。

 ラーシェスを通して、在りし日の愛妻を思い出しているようだ。


 そういえば、フラニスさんも「ラーシェスにボルテンダールの面影が感じられる」って言ってたな。

 二人を足して、二で割っても、ラーシェスになるとは思えないのだが……。


「ボルテンダールさんはどうやってフラニスさんと出会ったの?」


 ラーシェスが一番気にしていたのは、二人の馴れ初めだったようだ。

 ボルテンダールさんは、相好を崩して答える。


「簡単に言えば、怪我していた彼女を儂が助けたのだ」

「へえ、ロマンチックだね」


 良くある話だが、良くあるからこそ、魅力的なのだ。


「儂は【暴食】として生きねばならぬ故、彼女とどうこうするつもりはなかったのだが、押し切られてしまってな――」


 ニヤニヤ顔でのろけ話が始まった。

 止めなければ、延々と続きそうだ。


 ラーシェスだけでなく、リンカも興味津々といった様子で聞き入っている。

 だが、俺は興味ないので、その話を聞き流しながら、彼の発言の一部について考える。


 ――【暴食】として生きねばならぬ故。


 やはり、SSSギフトの持ち主が普通の人生を歩むのは難しいのだろうか。

 エムピーからSSSギフトの事を聞いた時から覚悟していたが、当事者の言葉を聞くとあらためて重く感じる。


 しばらくし、ようやく、ボルテンダールさんの、のろけ話が終わったようだ。


「ともあれ、よくぞ試練を乗り越えたな。褒美はやれぬが、儂に答えられることならなんでも答えるぞ。答えられる事ならばな」

「ご褒美ナシなんだ」


 ラーシェスは露骨にガッカリする……。


 ボルテンダールさんの言い方も意味深だけど、それは置いておいて、俺は気になっていたことを尋ねる。


「この試練はやっぱり幻影魔法なんですか?」

「そうだな。そなたの言う通りだ」

「SSSギフトの力ですか?」

「それも正解だ。だが、どの力かは教えられん」

「それが、答えられないことですか?」

「いや、楽しみを奪っては申し訳ないだろう」


 ははは、とボルテンダールさんは豪快に笑う。

 お楽しみはとっておけ――とばかりに。


「他にも、聞きたいことはいっぱいあるであろう?」







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダールとの会話(2)』




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