第266話 再戦


 ――数日後。


 俺たちはレプリカ天使に再度、戦いを挑んでいた。

 数日の特訓で、俺たちは新しい戦法を身につけた。

 勝算は十分にある。


 たとえ、負けても死なないとしても、あの経験は二度とゴメンだ。

 今日、ケリをつけてやる!


 戦いは順調に運び、前回同様、天使の両腕を切り落とした――。


 ――七罪刻印者と断定

 ――全滅を命ず

 ――サード・シーケンス

 ――レイモード


「みんな、来るぞっ!」


 天使の目――青い珠に光が収束する。


 リンカは腰を落とし、両腕を前に出し、×字に交差させる。

 幽冥二刀ヘル・アウェイツ

 右手には長い冥土。

 左手には穢土。

 いつでもスキルを発動できるように構えている。


 そして、光線がリンカに向けて発射される。


 「弐之太刀にのたち後先之太刀ごせんのたち――力に従うは居合いあいあらず、心に勝つが居合なり。雲晴れた、後の光をとくと見よ」


 俺もそれに合わせて――。


『――【付与:スキル強化】』


 リンカの弐之太刀をスキル強化する。

 リンカの二刀が斜め下に――光線を斬り裂く。


「やりましたっ!」

「ふぅ」


 これが俺とリンカがやった特訓だ。

 弐之太刀は強力なカウンター攻撃だ。

 しかし、それだけでは光線を斬れない。

 そこで、俺が付与魔法でスキル強化したのだ。


 言うのは簡単だが、習得するのは大変だった。

 弐之太刀が発動する、ほんの僅かな瞬間にタイミングを合わせなければならない。


 ――リンカと完全に呼吸を合わせる。


 出会ったばかりの頃だったら、簡単には出来なかっただろう。

 だが、これまで一緒に戦って来た経験があったから、数日でマスターできたのだ。

 それでも、朝から晩までかかりっきりだったけどな。


 一方、ラーシェスは――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


「ボクの新しいスキルなら、あの光線を斬れるよ」

「本当か?」

「うん。ご先祖様が言ってた」


 ボルテンダールの試練――ラーシェスに、次代の【暴食】に、そのスキルを学ばせるための試練なのだろうか。


「それはあの夢の中で?」

「うん。使えるようになるまで、時間がかかったけどね」

 それがひと晩、目覚めなかった理由のようだ。

「でも、あの光線にタイミングに合わせるのは難しそうだから、レントに手伝って欲しいんだ」

「無空弾?」

「うん。あの光線くらい速く撃てる?」

「あの速さか……それは、俺にとっても修行になるな」


 シャノンさんから無空弾を習ってから、まだ短期間だ。

 今までは速さよりも、威力を上がる練習をしてきた。


 フラニスの試練やゴーレム相手では、速さが必要なかった。

 しかし、今後を考えると、速さも習得しておきたい。


「よし、一緒に練習しよう」


 数日間。


 リンカと呼吸を合わせる一方で、ラーシェスとの特訓もこなした。

 対策は十分。ラーシェスならやってくれるはずだ。


   ◇◆◇◆◇◆◇


『――【誅天我討パニッシュ・マイ・ヘブン】』


 ラーシェスにも光線が飛んでくる。

 彼女はそれに合わせて、血統斧レイン・イン・ブラッドを振るう。


 タイミングはバッチリだ。

 血統斧レイン・イン・ブラッドと白い光線が衝突する。

 両者の押し合いが始まった。

 ラーシェスは両足を踏ん張って、光線を押し返そうとする。

 光線も負けじと押してくる。


 ジリジリと押されて、押し返されて。

 ラーシェスの額に大粒の汗が浮かぶ。


 彼女は血統斧レイン・イン・ブラッドを握る手に力を入れる。

 が。

 光線が徐々に押してきた。

 血統斧レイン・イン・ブラッドが少しずつ押し上げられる。


「うううぅ」


 ラーシェスの顔が苦悶に歪む。


 ――大丈夫か?


 ラーシェスの身体全体がジリジリと後に下がっていく。

 このまま、押されてしまうか――そう思ったとき。


 俺は気がついた。

 普段はドス黒い色をしている血統斧レイン・イン・ブラッドが、少しずつ白くなっている。


 ――あれは、光線を吸い込んでいるのか。いや、喰っているのか?


「いけええええ」


 裂帛の気合いとともに、ラーシェスが押されていた血統斧レイン・イン・ブラッドを強く振り下ろす。

 血統斧レイン・イン・ブラッドが純白に染まる。

 光線は消滅した。


「やった」


 ラーシェスが笑みを浮かべる。

 俺とリンカも、ラーシェスも白い光線に勝つことが出来た。


 だが、まだ、戦いは終わっていない。

 次の光線が飛んでくるかもしれない。


「今だッ!」


 その前に全力で片をつける――。


『――【付与:スキル強化】』

参之太刀さんのたちは先の先――かかるも退くも足はただ居つかぬやうに使ふなり。右手をば陽にあらはし、左手は陰にかへして、斬るにあり」

『――【付与:スキル強化】』

『――【魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション】』


 俺たちの全力攻撃で、天使は消滅した。

 そして、聞き慣れた声が聞こえてくる。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダールとの会話』


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