第264話 ラーシェスの場合
「……ニャ」
「……るニャ」
「……おきるニャ」
「オーナー、おきるニャ」
胸の辺りが重い、それに、そこから呼びかける声が聞こえてくる。
だんだんと、ラーシェスの意識が覚醒してきた。
「イータ?」
「そうニャ、オーナー、大丈夫かニャ?」
「ああ――」
ズキン――とこめかみが痛む。
だが、そのおかげで完全に意識がハッキリした。
それを確認したのか、イータはラーシェスの胸からピョンと飛び降りる。
ラーシェスが立ち上がって前を見ると――。
「あれは……天使…………」
先ほどまで戦っていた天使が横たわっている。
ラーシェスは今、気がついたと、自分の腹に手を当たる。
「怪我はない……倒したのか?」
キョロキョロと見回すが、他には誰もいない。
「レントとリンカは……?」
今、自分が居る場所は先ほどまで天使と戦っていた白い空間に似ている。
だが、それとは別の空間であるように感じる。
「イータは大丈夫か?」
「お腹減ったニャ」
ようやく、イータの毛色が黒くなっていることに気がついた。
「ああ、今すぐあげるから」
「それはいいニャ。それよりあいつニャ」
「天使は……死んでいる?」
ラーシェスは倒れている天使に歩み寄る。
イータはラーシェの肩に飛び乗る。
ラーシェスは天使の前で立ち止まる。
油断しないように、
「あれは、ご馳走ニャ!」
イータはラーシェスの肩から、天使の上にとジャンプする。
「いただくニャ」
そう言うと、イータは天使の右腕にかぶりつく――、
ゴリゴリ。
グシャグシャ。
バリバリバリバリ。
天使をかみ砕き、咀嚼し、嚥下する。
その度に、イータの黒毛が白くなっていく。
「美味しいニャ。次は左腕ニャ」
両腕を食べ終わると、次は両足。
四肢を食べ終わると、イータの毛は真っ白だ。
その光景に圧倒され、ラーシェスは動けずに見入っているだけだ。
「メインディッシュニャ」
残るは胴体と頭部だけ。
舌なめずりしたイータが、天使に噛みつく。
ゴリゴリ。
グシャグシャ。
バリバリバリバリ。
天使が削られ、イータの胃袋に収まっていく。
純白になった毛色は変化しない。
その代わりに――。
「イータが大きくなってる」
ひと口ごとにイータの身体が一回りずつ巨大化する。
すべて食べ終わった頃には――。
「ふう。満腹ニャ」
ラーシェスの3倍もの大きさになっていた。
「むっ。忘れてたニャ」
イータがラーシェスに目を向ける。
ラーシェスが今まで見たことのない獰猛な目つきだ。
自分が食べられる――ラーシェスの背筋に冷たい汗が流れる。
「デザートがまだあるニャ」
イータが一歩、ラーシェスに近づく。
それに会わせて。ラーシェスも下がる。
ジリジリと後退していく。
ラーシェスは
死ぬかもしれない――ラーシェスは諦めそうになる。
そのとき――。
「【暴食】の本質は喰らうこと。喰らわねば、喰らわれる」
試練の最中に聞いた声が聞こえる。
それと同時に、新しいスキルの使い方が身体の中に流れ込んでくる。
「さあ、喰らうのだッ!」
ラーシェスから恐怖が消え去る。
「そうか、これが【暴食】なんだ」
ラーシェスはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
左足を後ろに下げ、半身になる。
「飼い猫に喰われる飼い主なんて笑い話だよ」
「いただきますニャ」
「それはこっちのセリフだよ。いっぱい食べてあげる」
イータの身体が膨れ上がり、白いオーラに包まれる。
イータが飛びかかる。
ラーシェスが
『――――』
両者が衝突し、ラーシェスは意識を手放した。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『敗戦の翌日』
楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m
本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます