第263話 目覚め
――じゃり。
口の中で砂を噛んだ音で、俺は目を覚ました。
頬に当たる乾いた風。
背中を焼くような暑さ。
重たい身体をなんとか起こして、俺は思い出す……。
「さっきのは――夢か」
偽物の砂漠に、偽物の亡者、偽物のエムピー。
内なる獣が見せた幻覚だろう。
後味の悪い――最悪の目覚めだ。
もし、あそこで踏ん張れなかったら、俺は内なる獣に呑み込まれていた。
九死に一生を得たってところか。
気持ちを落ち着かせ、周囲を見る。
今度は、本物の砂漠だ。
ここは――ボルテンダール砂漠の入り口か。
あやふやだった記憶が収束していく。
俺は自分の腹に手を当てる。
「穴は空いてないか」
土手っ腹に、大きな穴を開けられた。
俺は、俺たちは、天使に負けたんだ。
なら、なんで、俺は生きているんだ。
冒険者として今までやってきた経験から判断するに、あれは確実に死ぬ怪我だった。
ということは……。
そのとき、隣で小さなうめき声が上がる。
そちらを向くと、リンカが目を覚ますところだった。
「うううぅ」
「リンカ、大丈夫か?」
起き上がったリンカはガタガタと震えている。
彼女も同じように内なる獣に襲われたのだろう……。
「れっ、レントさん」
彼女は堪えきれぬといった様子で俺に抱きついてきた。
両腕をガッシリと背中に回される。
俺も彼女を強く抱き返した。
「怖かったです……」
「大丈夫。もう、大丈夫だ」
「夢の中でレントさんの声が聞こえて……ありがとうございます!」
リンカも俺と似た悪夢を見たのだろう。
「俺も同じような夢を見た」
「あれは、内なる獣ですよね」
「厄介なヤツだ。隙あらば、俺たちを呑み込もうと機会を窺っている」
リンカは頷く。
そして――。
「そういえば」
彼女もさっきの俺と同じく、自分の腹に手を当てる。
「怪我が消えてますね。私は死んだかと思ったのですが、ラーシェスさんが助けてくれたんですか?」
「いや」
俺は首を横に振る。
「リンカの後に、ラーシェスも俺もあの光線で殺された」
「そうなんですか……」
リンカは狐につままれたような顔をする。
「あれは確かに、死の感覚だった。もう、二度とゴメンだ」
「私もそう思いました」
『断空の剣』に居た頃、俺はヤツらの囮にされ何度も死の淵を味わった。
死の手前は何度も経験した。
だから、その先もなんとなくだが、予感できた。
その予感が実現した……そうとしか思えない。
リンカも俺と同じ顔をしている。
俺と同様に、死にかけた経験を何度もしたことがあるのだろう。
「ラーシェスは……」
俺たち二人と違って、ラーシェスはそのような経験はしたことがない。
ラーシェスは、まだ目を覚ます気配がない。
この暑さの中だというのに、彼女の身体は冷え切っている。
全身から冷たい汗が流れ、その顔は苦悶に歪んでいる。
「ラーシェスさんは大丈夫でしょうか?」
「内なる獣も、天使による死の疑似体験も、彼女にはキツすぎる。無事、乗り越えてくれるのを祈るしかない」
「そうですね」
リンカもツラそうな顔をする。
こればかりは信じて待つしかない。
俺は切り替えるように、リンカに伝える。
「試練について、ひとつ、思い当たる節がある」
「それは?」
「ピラミッドも、天使も、幻影魔法の可能性が高い」
「幻影魔法……」
「ボルテンダールのギフトはラーシェスと同じ【
「確かに、そうですね」
「これだけ巨大なピラミッド。その割には、3つの試練で踏破した領域は狭すぎる。それにあの天使と、俺たちの擬似的な死。実際に作られたものと考えるよりは、幻影魔法だと考える方がしっくりくる」
「確かにそうですね。なら、いずれ、私たちも同じギフトの持ち主に出会うんでしょうね」
俺は頷く。
SSS――七罪の刻印。
俺たちは引かれ合う運命なのだろう。
あれだけの幻影魔法が使える程の力の持ち主か。
ともあれ、まずはボルテンダールの試練をクリアすることだ。
そのためには、ラーシェスの目覚めを待つしかない。
だが、しばらく待っても彼女は目覚めなかった。
俺はラーシェスを背負い、リンカとともに街へと戻った――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『ラーシェスの場合』
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