第261話 最後の試練(5):サード・シーケンス


「リンカ、あれを」

「はいっ!」


 これまでに累積されたダメージで、天使の全身にヒビが入っている。

 そろそろ、頃合いだ。


 俺の合図で、リンカが二刀を構える。


参之太刀さんのたちは先の先――かかるも退くも足はただ居つかぬやうに使ふなり。右手をば陽にあらはし、左手は陰にかへして、斬るにあり」


 目に見えぬ高速の斬撃。

 これで天使の胴を両断できるか――そう思ったが。

 天使は辛うじて反応。

 両腕で胴をかばった。


 一命を――とはいかなかったが、かばった右腕が、肘から落ちる。


「よし、次は左腕だ」


 リンカに反撃を仕掛けるかと思ったが、天使は標的をラーシェスに変えた。


「マズい」


 ラーシェスはリンカの攻撃に見蕩れていたせいで、反応がワンテンポ遅れる。

 天使はそれを見逃さない。

 残った左腕でラーシェスを殴る。


 ――ガンッ。


 ラーシェスは頭を殴られ、数メートル吹き飛んだ。


「ラーシェスさん!」


 リンカが叫ぶ。

 俺は駈け出す。

 同じタイミングでリンカも。

 天使の追撃を阻もうと、リンカはラーシェスと天使の間に、強引に割り込む。


「リンカッ!」


 ――ガンッ。


 リンカも殴り飛ばされる。

 だが、リンカが時間を作ってくれたおかげで、俺が間に合った。

 俺はラーシェスを抱えて、天使から離れる。


 クソッ。

 俺の回復魔法は効かないし、唯一の回復手段を持つラーシェスはこの様だ。


「ラーシェス、起きろッ!」


 俺は彼女の頬を叩く。何度も何度も。


「うっ……」

「目が覚めたか?」

「うっ、うん。今のは?」

「取りあえず、自分を回復させろ」

「わかった」


『――【魂魄浄化クレンズ・ソウル】』


 まだ、意識がしっかりとしていなかったが、【魂魄浄化クレンズ・ソウル】によって、ラーシェスは回復した。


「大丈夫、まだ、戦える。ボクはどうすれば良い?」

「今は様子見だ。リンカのケガを治してくれ」

「わかった」


『――【魂魄浄化クレンズ・ソウル】』


 ラーシェスがリンカの傷を癒やす。

 リンカはすぐに立ち上がり、天使と向き合う。

 彼女の戦意はまったく失われていない。

 それどころか、顔には凄惨な笑みを浮かべている。


 あれは――。

 何度か見た表情だ。

 激しい戦いの最中に現れるあの表情。


 あれは――内なる獣がリンカを内側から喰い尽くそうとしている顔だ。


「ヤバいッ!」


 今の状況で俺に出来ることはほとんどない。

 唯一出来るのは、リンカの弐之太刀か参之太刀にスキル強化をかけることだが……。

 どちらのスキルも発動が速すぎる。

 今まで何度となく練習したが、未だに上手く合わせられない。


 天使は負傷の影響がないようだ。

 変わらず、不気味な顔でリンカを見ている。

 リンカの口元が裂けんばかりに持ち上げられる。


 両者が交錯する。


 ――ぼとり。


 腕が落ちた音だ。

 天使の腕だ。


 俺は飛び出して、リンカに抱きつく。


「リンカ、リンカ、リンカ」


 彼女の身体を揺すぶりながら、何度も何度も呼びかける。

 戦いに勝ったとしても、リンカが内なる獣に呑み込まれてしまっては俺たちの負けだ。

 必死に続けていると――。


「……レント、さん?」


 彼女が目を開ける。

 目が合う。

 いつもと同じリンカの目だ。


「大丈夫?」

「はい。もしかして、私……」

「ああ、でも、もう平気そうだね」

「はい」


 良かった。


「起きられる?」

「はい」


 俺は彼女の手を掴み、引き起こす。

 うん。もう、大丈夫そうだ。


 後は、天使だ。

 今は、動きを止めている。

 だが、普通のモンスターではない。

 両腕を失っても、まだ、天使からは嫌な気配が感じられる。

 次にどんな攻撃が来るか。

 こちらも迂闊に動けない。


 ――七罪刻印者と断定

 ――全滅を命ず

 ――サード・シーケンス

 ――レイモード


「ヤバいッス! アレを喰らったらヤバいッス!」


 アンガーが慌てて絶叫するが――。


 天使の目――青い珠に光が収束する。

 次の瞬間――一条の白い光線。


「がはっ」


 リンカの胸に大穴が空いた。

 俺だけではなく、リンカもまったく反応できなかった。

 その穴を見て、俺は悟る。

 もう、リンカは助からないと。


『――【魂魄浄化クレンズ・ソウル】』


 慌てて、ラーシェスが回復スキルを発動させようとするが――。


「がはっ」


 ラーシェスの胸にも大穴が空く。


 なんでだ。

 どうしてだ。

 俺たちはどこで間違えたのか。


 そして――俺の腹にも。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『???』


続きます。


楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る