第260話 最後の試練(4)リンカVS天使

 そして、リンカがふらついた瞬間――。

 天使がリンカの胸元目掛けて、強い突きを放った。


 今までよりも、一歩踏み込んだ突き。

 速さも今まで以上。


 その突きに対し――。


 リンカは足をもつれさせる。

 そこに天使の剣が迫る。

 それでも、リンカは倒れそうな態勢を立ち直す。

 なんとか、ギリギリでバックステップ。

 間一髪で剣先を躱した。


 とはいえ、態勢は崩れている。

 片膝をつき、幽冥二刀ヘル・アウェイツの短刀穢土を手放してしまった。


 ――絶体絶命のピンチだ。


 リンカは慌てて、1メートル先に落ちた穢土に目を向ける。

 視線が天使から離れた。

 そして、空いた左手を伸ばそうと――。


 ――いや、それは悪手だ!


 その隙を見逃してくれるほど天使は甘くなかった。

 今までの突きから攻撃を切り替える。

 大きく振りかぶった剣がリンカの頭上に迫る――。


 リンカは左手を引っ込める。

 膝をついている左足のつま先に体重を乗せる。

 右手の冥土をギリギリまで後に引く。


 そして――。


「姐御、今ッス!」


弐之太刀にのたち後先之太刀ごせんのたち――力に従うは居合いあいあらず、心に勝つが居合なり。雲晴れた、後の光をとくと見よ」


 完璧なカウンター攻撃だ。

 冥土は天使の剣を弾き飛ばす。

 剣はクルクルと高く舞い、数メートル先まで飛んでいった。


 ぞくり。


 俺はリンカを見くびっていた。

 彼女が天使に押されていると思っていた。


 追い詰められて。

 バランスを崩し。

 ギリギリでバックステップして。

 片膝をつき。

 天使から視線を切り。

 落とした穢土に手を伸ばす。


 全てが彼女の計算だったのだ。

 絶好のカウンターを放つための。


「すごっ」


 ラーシェスも見蕩れている。

 いや、見蕩れている場合じゃない。


「ラーシェス、飛び出せッ!」

「うっ、うん!」


 ワンテンポ遅れたが、ラーシェスが血統斧レイン・イン・ブラッドを手に、天使に向かって駈ける。

 この辺りが、リンカとラーシェスの経験の差だ。


 だが、敵は武器を失っている。

 今度は、こっちのターンだ。

 二人並んで、天使に攻撃を仕掛ける。


 リンカは落ちている穢土を拾い、天使に猛攻撃を叩き込む。

 二刀で斬り。殴り、蹴る。

 絶え間ない連撃は、舞っているようだ。


 天使も反撃しようとするが、リンカはヒラリヒラリと回避する。

 動き方から、リンカはまだまだ余裕のようだ。


 リンカが引きつけてくれるおかげで、ラーシェスも攻撃に専念できる。

 ガンガンガン。と血統斧レイン・イン・ブラッドが天使を叩きつける音が響く。


 こちらの一方的な攻撃が続く。

 だが――。


 そこで、俺はあることに気がついた。


「イータ、さっき言いかけてたよな?」


 戦いの前、俺の無空弾は天使に効かなかった。

 その際に、イータが言った。


 ――それは効かないニャ。


 そこで俺は尋ねた。


 ――なにが通じるのか、と。


 そのときは、天使が攻撃して来ようとして、警戒をうながすアンガーの叫びにかき消されてしまった。


「天使には、SSSギフトのスキル攻撃しか効かないニャ」

「やっぱり、そうか……」


 リンカの場合。

 壱之太刀が発動しているから、幽冥二刀ヘル・アウェイツによる攻撃はダメージを与えている。

 しかし、手甲と脚甲による打撃攻撃はノーダメージだ。


 ラーシェスの場合。

 血統斧レイン・イン・ブラッドで攻撃しているのにもかかわらず、ノーダメージだ。

 これは通常攻撃だからだろう。


 となると、SSSスキルで攻撃するしかない。


「ラーシェス、スキル攻撃だッ!」

「分かった」


『――【魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション】』


 ラーシェスは血統斧レイン・イン・ブラッドを天使の胴に叩きつける。

 今度は、天使の身体がピシリと音を立てる。


「いけええええ!」


 【魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション】は血統斧レイン・イン・ブラッドを相手に当てている状態で、魔力を注ぎ込めば込むほど大きなダメージが与えられる。


 そして、俺は――。


『――【付与:スキル強化】』


 【魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション】を強化する。


 天使の傷口が広がる。

 そこからは赤い液体が飛び散る。


 ――血か?


 人間を超越した存在を模しながらも、人間と同じ赤い血を流す。

 悪趣味だな。


 リンカは連続攻撃で、天使に細かい傷を無数につけていた。

 そこからも、赤い血が流れている。


「リンカ、あれを」

「はいっ!」







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『最後の試練(5):サード・シーケンス』


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