第257話 最後の試練(1):いざ決戦!


「ラーシェスの血を引く者よ。よくぞ、第二の試練を突破した。残るは最後の試練。覚悟して臨むが良い」


 聞き慣れた声が終わると、床に直径1メートルほどの魔法陣が現れた――。


「最後の試練?」


 その言葉に拍子抜けした。

 ボルテンダール墳墓は巨大なピラミッド。

 まだ、ごく一部しか攻略していない。


 この先、どれほどの試練が待ち構えているのか。

 完全攻略するまでどれだけの時間がかかるのか。


「もう、終わりなんだ」

「ボクももっと長いと思ってた」


 俺もそう思っていただけに、肩から力が抜ける。


「とりあえず、一休みしようか」


 挑むにしろ、帰るにしろ、一度休憩を挟んだ方がいいだろう。

 ラーシェスは血統斧レイン・イン・ブラッドを手入れ布で綺麗に磨く。

 リンカは手甲と脚甲の調整をする。

 俺の心拍数は――平常通りだ。


「リンカはだいぶ動きのキレが良くなったね」

「はい! カタナを使わない戦い方で身体の動かし方が良く分かりました」

「ラーシェスとイータのコンビネーションも良いね」

「しっかりやらないと怒られるから、イータは必死だったニャ」

「怒られる?」

「いっ、いや、頑張るとご褒美もらえるから、ちゃんと仕事したニャ」


 ラーシェスのひと言に、イータの顔が引きつる。

 ただ、ご褒美は本当で、今のイータの毛並みは真っ白だ。


 イータは毎日、一定量の魔力をラーシェスからもらっている。

 それが足りないと毛が黒くなり、十分になると白くなる。


 ラーシェスの魔力がイータの食料で、【暴食】の名前はラーシェスよりもイータの方が相応しいかもしれない。

 今のところ、ラーシェスは死んだ敵から魔力を吸い取る【屍肉喰コープス・カニバル】のスキルしか使えない。

 そのうち、他の方法――たとえば、敵を攻撃すると魔力を奪えるとか――も覚えるのだろうか。


「レントさんの無属性魔法も、かなり強いですよね」

「ホント、アレは反則だと思うよ」


 単体攻撃の『無空弾』。

 範囲攻撃の『無空波』。


 どちらも、魔力を溜めるほど強力になる。

 その上、シャノンズロッドによって威力が増す。

 魔力を気にせず、撃ちまくれるので、大抵の敵相手なら無双できる。


 今の俺たち三人なら、『メルバの大迷宮』も良いところまで行ける。

 現在、最先端を攻略中の『流星群』と一緒に戦える日も、そう遠くはないだろう。


「そういえば、なんで第二の試練は5040体って中途半端な数字だったんだ?」

「私も気になってました」

「ああ、それはご先祖様の遊び心だね」


 俺とリンカにとっては意味のない数字なのだが、ラーシェスは意味が分かっているようだ。


「ボクたちSSSは『七罪の刻印』。それにちなんで、数字遊びだよ」


 そう言われても、ピンと来ない。


「7の階乗。つまり、7×6×5×4×3×2×1=5040ってこと」

「へえ、よく気付くね」

「凄いです」

「まあ、実家で暇なときは、こんなことばっかり考えていたからね」


 ラーシェスは大したことないという顔をしている。

 謎解きの際もラーシェスのおかげだったし、これからもこの手の問題が出たらラーシェスが活躍するだろう。


「さすがに最終試練も謎解きってことはないだろうけどね」

「罠、謎解き、大量の敵。次はなんだろうな。アンガー分かる?」

「ちょっと、調べるッス……」


 そう言ったアンガーだが、すぐに震え出した。


「レントの兄貴……」

「どうした?」


 声まで震えている。


「第二の試練のときもヤバいと思ったッスけど、今回はシャレにならないッス」


 アンガーは心底怯えきっている。


「そんなにヤバいの?」

「これはあれッス……」

「あれ?」

「いや、実際に体験してもらうしかないッス」


 言葉に出来ない程なのか……。


「今の俺たちじゃ無理?」


 俺の問いかけに、アンガーはしばし考え込む。


「俺っちだったら逃げ出すッス。けど、いずれにしろ、兄貴たちは避けて通れない相手ッス」


 意味深な言葉だ。

 まるで、この先に俺たちの天敵がいるかのような……。


「それに、一ヶ月やそこら、修行しても勝敗には影響が出ないッス」

「そうか……」


 だとしたら、挑むしかないな。

 問題は、今日挑むか、後日にするかだ。


「どう思う?」

「行けます」

「ボクも行けるよ」


 二人ともやる気満々だ。

 確かに、第二の試練を軽々クリアして、調子が良い。

 このままの勢いでトライするのもありだろう。


「よし、じゃあ、行こう」


 最後の試練が始まった――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『最後の試練(2):ファースト・シーケンス』


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