第253話 コットン先生を救え

 俺たちはコットン先生を連れて冒険者ギルドに戻る。

 出迎えてくれたプレスティトさんに話がまとまったことを伝える。


「分かりました。ここにいる方だけでも、今すぐに伝えましょう」


 プレスティトさんの許可も得たことで、俺は大声でギルド中に伝える。


「おーい、ちょっと話を聞いてくれ」


 俺が呼びかけると、酔っぱらいたちのざわめきで騒がしかったギルド内が静かになる。


「おい、レントの話が始まるぞ」

「静かにしろよ」


 皆の注目が俺に集まる。

 他の者や、以前の俺だったら、一瞥されるだけで、すぐに酒盛りが再開したであろう。

 だが、俺は冒険者からの信用を勝ち取っている。

 彼らは注意して、俺の話に耳を傾けてくれるようだ。


「貧民街にあるコットン治療院は知ってるか?」


 知っている者、知らない者。

 反応は異なるが、この街に長くいる冒険者は知っているようだ。


「知らない奴は後で知ってる奴に詳しい話を訊いて欲しい」


 ひと息ついてから、俺は話を続ける。


「簡単に言うと、その治療院のコットン先生は、自分の儲けは考えず、最小限の治療費で貧民街の人々の治療をしている。毎日、ギリギリまで魔力回復ポーションを飲んでまでだ」


 知っている者は頷き。

 知らなかった者は本当か――と半信半疑だ。

 疑いの声を上げようとした冒険者が、隣の冒険者に小突かれる。


「先生は俺から【魔蔵庫貸与】を受けている。それでより多くの患者が救えるようになった。それは先生が望むことであり、貧しい人々にとっても希望の光だ。俺のギフトが貢献できで、俺も嬉しく思う。しかし――」


 この先を察した者の目つきが真剣になる。


「先生は限界まで魔力を借りている。このままでは返済不能になってしまう。だから、少しでも良いから、先生の返済に協力してもらえないだろうか」


 俺にも出来ることはある。

 返済を免除することも可能だ。

 しかし、俺はその手段を選ばない。


 借り手にはそれぞれ借りる理由がある。

 コットンさんのように崇高な者もいれば、先日の逆ギレ冒険者のように欲に負ける者もいる。

 だが、俺は自分の気持ちに従って、手心を加えるべきではないと考える。


 もし、それを始めれば、他人の人生を幸不幸を俺が操ることになる。

 俺がすべきは、あくまでも自らが定めた基準に従うのみ。

 規則に基づいて貸し出し、規則に従って取り立てる。


 ただし、今回はその規則内で救済する手段がある。

 それは――。


「要するに、先生の代わりに俺たちが魔力を返せば良いんだろ?」

「先生は貧民街の聖女だ」

「俺の妹も先生に助けられた」


 冒険者は貧民街育ちの者も多い。

 身よりもなく、伝手もない貧民街育ちの者にとって、ギフトを授かり、冒険者として身を立てるのは、貧困から逃れる唯一の手段と言っても良い。


「レントさん、俺たちの魔力で足りるなら、いくらでも使ってくれ」


 一人が名乗りを上げると、賛同の声が後から後から続く。

 コットン先生を知らなかった者も、周りに流され、同じ声を上げる。


「皆様、ありがとうございます」


 コットン先生は目に涙を浮かべ、御礼の言葉を述べる。


 誰も不幸にしない――これほど素晴らしいことはない。

 皆の同意が得られたところで、エムピーが姿を現した。

 救済方法の説明はエムピーに任せよう。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『救済方法とは』


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