第247話 貧民街の聖女
ボルテンダール墳墓から戻ると、プレスティトさんから相談を持ちかけられた。
ギルド内の相談室で、俺とラーシェス、プレスティトさんの三人。
エムピーも会話に加わっている。
わざわざこの場所を選んだのは、某ギルドマスターに邪魔されないようにだ。
「――という話です。どうするか、判断はレントさんにお任せします」
「そうですか」
プレスティトさんの話を聞き終わり、俺は考える。
【魔蔵庫貸与】を始めたことで、上手くいく冒険者もいれば、この前襲ってきた奴らのように、破滅する奴もいる。
それは理解していたが、彼女の話から、思わぬ影響があったと知った。
「後は、マスター次第です~」
そう言いつつも、エムピーの笑顔からは受けるべきだという思いが伝わってくる。
魔力運用という観点からは、受けるべき話なのだろう。
それに――。
「ボクからも頼むよ」
ラーシェスも背中を押してくる。
「まずは、先生に話を聞いてみます」
「お願いします」
伝聞よりも、直接話を聞いてみるべきだろう。
「ボクもついていくよ」
「ラーシェスは面識あるの?」
「うん。大したサポートが出来ているわけじゃないけどね」
「エムピーはどうする?」
「私はプレスティトさんと残業です~」
これまた、満面の笑みだ。
俺はラーシェスとともに、先生のもとを訪れることにした。
場所は街外れの貧民街だ。
どんな街であっても、生活に苦しむ人は必ず存在する。
そのような者たちが集まり、暮らす一画――それは貧民街と呼ばれ、他の場所とは異なるルールが存在する。
俺もいくつか見てきたことはあるが、詳しいわけではないし、そこに暮らす人々の気持ちが分かるとは、口が裂けても言えない。
それでも、ここの貧民街は、荒んだ空気が薄い。
これもすべて、伯爵の治政のおかげだろう。
そして、一番の違いは道に放置されている病人や怪我人がほとんどいないことだ。
病気や怪我で働けず、誰からの助けも得られない者は、道端で緩やかに死を待つしかない。
それが、貧民街のルールのひとつだ。
誰も、他人を気にかける余裕は、金銭的にも、精神的にもない。
それだけ追い詰めらた人々が集まっているのだ。
そのような打ち捨てられた者がいないのは、これから向かう先生のおかげなのだろう。
この状況を見ただけでも、俺の気持ちは先生に会う前から、すでに決まりかけていた。
貧民街に足を踏み入れてから、厳しい視線を向けられているのが、よく分かる。
ここに暮らす者たちにとって、俺は部外者で、向けられる視線は不信感のかたまりだ。
彼らにとって俺の服装は、自分たちとは異なる者、外部の者、敵になり得る者である証だ。
だが、その視線も俺の隣の彼女を見て、ずいぶんとやわらいだものになる。
話しかけてくる者こそいないものの、皆、彼女に好印象を抱いている。
――大したサポートが出来ているわけじゃないけどね。
ラーシェスの言葉は謙遜か――いや、本当にそう思っているのだろう。
それが彼女のひととなりを現している。
「ここだよ」
彼女に案内され、目的の場所に到達する。
普通の民家よりも大きい木造の平屋だ。
他の街の貧民街に比べ、ここの貧民街はだいぶ清潔だ。
そして、この場所こそが、その象徴だ。
決して立派な建物とは言えない。
だが、古い建物は、丁寧に補修されたあとが見受けられる。
「入ろうか」
「うん」
馴染みであるラーシェスが先に入る方が、良いのだろう。
しかし、俺が先に入ることにした。
ここに来るまで不審な視線を浴びてきた俺が、ここでどういう扱いを受けるのか、その第一印象を知りたいからだ。
ドアを開けると、ベルがカランと音を立てる。
そして、俺が最初に受けた洗礼は、貧民街に来てから受けたものより、遥かに熾烈なものだった。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『ルーディーと言う名の少年』
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