第246話 ボルテンダール墳墓攻略三度目(4)


 ヒヤリ――と冷たい汗が背中を伝う。

 いや、やるしかない。


「エルティア、水」


 俺はリンカを指差して、エルティアに告げる。


「分かった! いけ、水精霊、流すのだ」


 直後、リンカの頭上に直径1メートルほどの水球が現れ――。

 ザブンと彼女に向かって落ちる。

 それで、リンカは一瞬、動きを止めた。


 水精霊が作り出す水球は唯の水ではない。

 戦闘意欲を沈静化する効果つきだ。

 本来は、敵の足止めに使うのだが、こういう形で役に立つとは思っていなかった。


 その隙に、俺は彼女に駆け寄る。


 接近した俺と敵の区別がついていないようで、俺に向かって幽冥二刀ヘル・アウェイツの一刀、冥土が振るわれる。

 俺は気にせずに、彼女を抱きしめる。


「リンカ! リンカ!」

「レントさんっ!」


 リンカの焦点が定まり、俺を認識する。


「私は……」

「それは良いから、一度、戻るぞ」

「でも、レントさん――」


 リンカは俺の身体を見て、戸惑いを見せる。

 だが、そんな悠長な場合ではない。


「良いから、走れッ!」


 つい、キツい言い方をしてしまった。

 心拍数も上がっている。


「わっ、分かりました」


 リンカは頷くと、二人が待つ場所へと走り出した。

 俺もを拾ってから、リンカの後に続く――。

 なんとか、ギリギリ駆け込む事が出来た。


「エルティア、火。全力で」

「分かった。火精霊、燃やし尽くすのだ」


 俺たちを追いかけるゴーレムに向かって、巨大な火炎が放射される。

 エルティアが使えるのま6000MPだ。

 土壁を発生させるのに1回、500MP。

 水球も1発で500MP

 合わせて2500MP。

 残りの3500MPを使い切った、火精霊の威力は途轍もなかった。

 前方10メートル先まで、ゴーレムやガーゴイルが消し炭だ。


 そして――。


 少し離れた場所。

 地面が光り、魔法陣が浮かぶ。


「みんな、あそこまで走れッ!」


 なんとか、敵の猛攻をしのぎながら、四人揃って転移陣を踏む――。


「助かったか……」


 転移陣によって、元の部屋に戻って来ることが出来た。

 ホッと落ち着いたところで、三人の視線が俺に集まる。


「レントさん、大丈夫ですか?」


 リンカは心配そうに、申し訳なさそうに。


「うわ……」


 ラーシェスは自分も怪我したというのに、それ以上に驚愕した顔で。


「ずいぶん、痛そうだな」


 エルティアは慣れているのか、それほど驚いていない。


「ああ、これくらいなら大丈夫、怪我のうちにも入らないよ」


 『断空の剣』時代は、もっとムチャクチャだった。

 頼みのエルは、なかなか俺を回復してくれなかったし。

 いつも、自分でポーション使っていたしな。


 皆が見ているのは、俺がさっき拾ってきた、左腕の肘から先だ。

 リンカを止める際に、斬られたのだ。


 さすがは幽冥二刀ヘル・アウェイツとリンカの腕前だ。

 すっぱり斬られて、綺麗な断面。

 合わせたら、そのままくっつきそうに見えるほどだ。


「ハイヒール」


 自分に魔法をかけて、腕をくっつける。


「これで元通り、冒険者をやってるとこれくらい普通だよ」


 リンカもラーシェスも真剣な顔つきになる。


「ラーシェスも怪我したけど、初めての痛みはどうだった?」

「凄い痛かったけど、レントはもっとでしょ? これが普通なんだ……」

「そこは慣れるしかないけど、やっていけるか?」

「ボクは冒険者を甘く見ていたよ。でも、レントみたいに仲間を守れるなら、どんな痛みにでも耐えて見せるよ」

「ラーシェスなら、大丈夫。期待してるよ」

「うん」


 ラーシェスは大丈夫そうだ。


「リンカ、落ち着いたか?」

「……はい」


 落ち着いてはいるようだが、その顔は晴れない。


「ごめんなさい」

「いや、リンカは悪くない。俺が内なる獣を甘くみていたせいだ」

「私でもコントロール出来なくなって……」

「まあ、過ぎたことは仕方がない。エルティア助かったよ」

「そうだろう! 私の精霊魔法は凄いだろ!」


 褒められたエルティアは調子に乗るが、彼女がいなかったらどうなっていたことか。

 きっと、内なる獣を鎮めされるSSSギフトの持ち主がいる事を前提としているのだろう。


 今までも何度かリンカの内なる獣が顔を覗かせる場面はあった。

 特に激しい戦いになると、その傾向が強い。


「とはいえ、対策が必要だ。アンガー、なにかある?」


 アンガーもイータも、今回は出番がなかった。

 あまりにも敵が多すぎて、アドバイスを聞く暇がなかったからだ。

 アンガーにもイータにも落ち度はない。

 リンカもラーシェスもそれが分かっているので、二匹を責めたりはしない。


幽冥二刀ヘル・アウェイツのせいッス。あれは簡単に人を呑み込むッス」

「やっぱりそうか……」

「対策するとしたら、カタナを使わないことッス。後は、スキルも良くないッス」

「殴ったり、蹴ったりは?」

「それなら、大分ましッス」

「そうか、しばらくはその方向性で行こう」


 リンカは俺の言葉に頷く。

 ジンさんのアドバイスが思わぬところで役立った。

 もとから格闘術をリンカの戦闘スタイルに組み込もうとしていたところだ。

 良い経験になるだろう。


「じゃあ、街に戻ろうか」


 俺の言葉に三人が頷いたので、俺たちはボルテンダール墳墓から帰還する。


 ちなみに、今回の戦闘結果だが――。


『討伐数:113/5040』


 これを後、50回か……。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『貧民街の聖女』


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