第245話 ボルテンダール墳墓攻略三度目(3)


 彼女を最適に運用するにはどうすれば良いかというと――。


 それを理解するためには、そもそも、精霊魔法とは何か。

 エルティアがどうやって精霊魔法を使っているのか。

 それを知らないことには始まらない。


 普通の属性魔法――火魔法や土魔法は決まった種類の魔法しか使えない。


 たとえば、ファイアボール。

 火の球を飛ばす魔法だが、球の大きさや速さ、威力を変えることは出来る。

 しかし、好きな形に変えられるわけではないし、複数同時に発射することができない。

 だからこそ、俺の【自動補填オートチャージ】による連発が反則と言われるのだ。


 同じように、ファイアランスは火の槍を飛ばす魔法だが、これも槍から形を変えることはできない。


 そういう意味で、決まった種類の魔法しか使えないのだ。


 しかし、精霊魔法の場合は話が変わってくる。

 精霊は術者の意を汲み、出来うる限りのことをしてくれる。


 ――千変万化。


 この自由度の高さが精霊魔法がSランクギフトと呼ばれる所以だ。

 そして、プレスティトさんは言っていた「エルティアはバカゆえに、精霊に愛されている」と。

 精霊からすると、エルティアは放っておけない子どものようなものだ。

 エルティアの足りない思考力を精霊が補って、彼女の望むように精霊魔法を実現してくれる。


 そこで俺は考えた。

 エルティアに命令するのではなく、精霊にお願いすれば良いのでは――と。


 今回、俺からエルティアへの指示はたったの4つ。

 火。風。水。土。


 たとえば、さっきのように俺が「土」と言えば、土精霊が土壁を作ってくれる。

 本来なら、サイズ等の細かい設定は術者であるエルティアがやるものだ。

 それをすっ飛ばして、土精霊が良いと思う形に作ってもらうようにお願いしたのだ。


 右や左を間違えたりするエルティアに複雑な指示は不可能だ。

 だが、さすがにエルティアの火、風、水、土の区別はついている。


 これがエルティアを効率的に使う最善手だ!


 リンカは嵐だった。

 敵の中に飛び込み。

 斬り。

 殴り。

 蹴る。


 二刀だけではなく、手甲・足甲を使って次々と葬っていく。

 鬼神に取り憑かれたような暴れっぷりだが、それが裏目に出た。


 リンカが前に出すぎたせいで、ラーシェスとの間にスペースが出来てしまったのだ。

 俺は突出したリンカに向かって叫ぶ。


「リンカッ! 下がれッ!」

「…………」


 だが、戦闘に集中しているリンカには、俺の声が届かない。

 俺は慌てて飛び出し、ラーシェスのサポートに向かう。


「ラーシェス、右ッ!」


 彼女が前方のゴーレムを倒しきったところ、左右からゴーレムが挟撃する。


「無空弾」


 左側のゴーレムは俺が倒すが。

 右側のゴーレムに、ラーシェスは一歩、対応が遅れる。


 ――ガンッ。


 ゴーレムの巨大な拳に殴られ、ラーシェスの軽い身体が飛ばされる。


「ラーシェスっ!」


 俺は倒れたラーシェスを抱え、「無空弾」を連発しながら後退する。

 なんとか、ゴーレムの攻撃をしのぎながら、エルティアの元へ退避する。


「エルティア、土」

「わかった」


 俺の指示に、エルティアは前方にも土壁を生じさせる。

 これで四方を壁で囲み、しばらく、俺たちは安全だ。

 リンカが気になるが、まずはラーシェスの治療だ。

 ラーシェスは胸元を押さえ、苦しげにうめいている。

 肋骨が何本か折れているようだ。


「ミドルヒール」


 俺は先日購入した【回復魔法LV2】の中級回復魔法をラーシェスに向かって発動させる。

 眩い光がラーシェスの身体を照らし、傷を癒やす。


「大丈夫?」

「うん……なんとか」

「そこで休んでて」

「ごめんね」

「気にしなくていいよ」


 怪我が治っても、まだ、気持ちは戦える精神状態ではない。

 俺も自分の心拍数を確認するが、平常値だ。

 これくらいでは動揺しない。


 冒険者をやっていると、骨折くらいは当たり前。

 慣れてしまえば、かばいながら戦えるし。

 ロジャーさんなんかだと、半分死にかけても、いつも通り戦える――ってシャノンさんが言ってたな。


 だが、ラーシェスはデビューしたばかり。

 そして、これだけの怪我をしたのも初めてで。

 これだけの痛みを体験するのも初めてだ。


 普通なら、ここで撤退だ。

 しかし――。


 これはボルテンダールの試練。

 逃げる方法がない。


 大きく深呼吸――。

 冷静になれ。

 今、俺に何が出来る。

 何が最善手だ。


 心拍数は正常。

 よし――大丈夫。


「エルティア、土」


 エルティアが前壁を壊す。


「行ってくる。ピンチになったら、火で」

「分かった」


 俺はリンカのもとへ駆ける。

 見てる間にも、リンカはゴーレムの死体を積み上げていく。

 俺の声が届くか?


「リンカ! リンカ!」


 だが、我を失っているリンカは、反応しない。

 それだけではなく、目の焦点が合っていない。

 内なる獣に呑み込まれてしまったのか……。

 ヒヤリ――と冷たい汗が背中を伝う。

 いや、やるしかない。








   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダール墳墓攻略三度目(4)』


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