第242話 悪質債務者の末路

「奴らの処罰について、お願いがあるのですが――」


 俺はプレスティトさんに頼む。


「奴らは殺さないでもらえますか」

「当事者であるレントさんの意思は尊重したいのですが……」


 彼女としては、ギルド規則にのっとって処罰を下したいところだろう。

 その葛藤はよく分かる。

 そこにエムピーがひょっこりと現れた。


「こんばんは~」

「エムピーさん! あっ!」


 いきなり登場したエムピーを見て、プレスティトさんは俺の考えを理解したようだ。


「わかりました。そういうことなら、レントさんの言う通り、殺さずに鉱山送りにでもしましょう」


 そう。

 悪質債務者は殺してしまったら、そこでお終い。

 生かさず殺さず――それが最善だ。


「その方が、奴らにとっては重い罰になりますからね。後はこちらにお任せ下さい」


 そう言うと、プレスティトさんはギルドへと戻って行った。


「いや~、ついに出ちゃいました~」


 エムピーはパタパタと羽を揺らし、いつになく嬉しそうな声だ。


「アイツらの債務状況は?」

「マスターの想像通り、リボ落ちしてます~」

「まだ、一月も経っていないのにですか?」

「ああ、これが【緊急貸与】の恐ろしいところだよ」


 気軽に【緊急貸与】を使えば、債務はあっという間に膨れ上がる。

 そのことはしっかりと説明したから、後は自己責任だ。


「それで、奴らの処遇は? ランク落ち?」


 【魔蔵庫貸与】には信用ランクがあり、それに応じて借りられる量や返済期限が異なる。

 最初は下から二番目のシルバーで返済実績を積み上がることでランクが上がっていく。

 一方、返済が滞るとランクは最下位のブロンズに下がり、それでも返済が膨れ上がり、返済不能になると、【魔蔵庫貸与】が使用出来なくなる。


 そして、今回のような場合は――。


 エムピーが黒い笑みを浮かべる。


「文句なしの悪質債務者です~。権利剥奪です~。それに加えて――」


  興奮した様子で、羽がバタバタと揺れ動く。


中央情報機構ユグドラシルから、バッチリ許可が出ちゃいました~。ケツの毛までむしり取ってやるです~」


 いくら貸した魔力から利息を取れるとはいえ、あまりにも悪辣な利息をかけることは出来ない。

 もしそうであれば、誰でも簡単にリボ地獄に落とせる。

 そのようなことは中央情報機構ユグドラシルイコール創世神ユグドラシルにより禁じられている。

 だが、今回のように許可が出たとうことは――。


「トイチだと即、破滅なので無限リボ地獄がオススメです~」


 ガイたちと同じコースだ。

 奴らは死ぬまで利息を払い続けるしかない。

 魔力回復ポーションを飲んだり、モンスターを倒して最大魔力を増やしたり、債務を減らす方法もあるが、鉱山送りではそれも出来ない。


「どうなるの?」


 リンカは知っているが、知らないラーシェスはキョトンとした顔をしている。


「彼らは一生スキルを使えず、利息として魔力を全部マスターに支払い続けるです~」

「一生⁉」

「ああ、それがリボ地獄だよ。絶対に抜け出せない」

「怖っ」


 俺もエムピーに負けず黒い笑顔だったのだろう。

 ラーシェスの顔に恐怖が浮かぶ。


「大丈夫だよ。仲間にそんなことはしないから」

「そうです~。リンカさんもラーシェスさんも優良債務者です~。安心確実な貸し出しプランなので、心配ご無用です~」

「【魔力貸与】は上手く使えば、早く強くなれる。短い期間だけど、それは知ってるでしょ?」

「うん。レントのおかげで、信じられないくらい強くなれたよ」

「これからも魔力運用はエムピーに任せて、もっと強くなろう」

「うんっ!」


 【魔力貸与】を生かすかどうか、それは借り手次第だ。

 俺としては、進んで誰かを不幸にしたいわけではない。

 だが、内なる獣はそうではないと、俺は知っている。


 さっきの奴らに「ざまぁみろ」という気持ちがあるのは確かだ。

 しかし、それを望むようになっては――。


 俺はあらためて、気を引き締めた。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダール墳墓攻略三度目(1)』


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