第234話 ボルテンダール墳墓攻略二度目(6)

「檻の中にジャイアントスパイダーとソルジャーアントが合わせて6匹入っている。足の数は合わせて40本ある――それぞれ何匹?」


 ああ、有名なアリクモ算ってやつか。

 ジンさんがこういうの得意だったよな。

 ジャイアントスパイダーの足は8本。

 ソルジャーアントの足は6本だ。


 俺が考え始めようとした矢先、隣で元気良く手が挙がる。

 チラリと目を向けると、楽しそうな笑顔全開でピョンピョン跳びはねている。


「イータ、間違えるとどうなる?」

「たいしたペナルティーじゃないッス」

「エルティア、良いよ」

「ようやく、私の出番が回ってきたな」


 両腕を腰に当て、正解を確信した声でエルティアは答える。


「3匹ずつだ!」


 すると、「ブブー」という音とともに、どこからともなく振ってきた金だらいがエルティアの頭に直撃する。


 ――ゴン。


「いたあああ」


 エルティアは頭を押さえてうずくまる。

 金だらいはいつの間にか消えていた。

 間違えたら、落ちてくる仕組みなのだろう。


 見てると痛そうだが、ダメージはないようだ。

 なら、安心だ。


「エルティア、どうしてその答を?」

「もちろん、カンだ!」


 ああ、やっぱりな……。

 三人の呆れた視線がエルティアに突き刺さる。


「なんだ! その目は! バカにするなよ!」

「「「…………」」」

「見てろ、もう一度、挑戦だ!」


 間違えても大怪我するわけでもなさそうだし、彼女の好きにさせてあげよう。

 エルティアは両手の指を折ったり、曲げたり。

 一生懸命に考えているようだが、なにを考えているのか、凡人の俺たちには理解が及ばない。


「よし! クモが4匹、アリが3匹だ」


 さっきより悪化して、今度は足して7匹になってる。

 エルティアが答えると、再度、「ブブー」と音が鳴る。


「同じ手は食わないぞ」


 そう言ってエルティアはバックステップするが――。


 ――ドゴン。


「いたあああ」


 どうやら、金だらいは追尾機能があるようだ。

 しかも、二回目だろうか、さっきよりも強い衝撃だ。

 彼女は突っ伏してしまった。


 早々にリタイアしたエルティアを放っておいて、俺とリンカも真面目に考え始める。

 ウンウン唸る俺たちとは対照的に、ラーシェスは余裕たっぷり。

 もしかして、もう答が分かっているのか?


「リンカはどう?」

「私、こういうの苦手で。レントさんは?」

「昔、聞いたことがある。今、思い出してるとこ」


 そこにラーシェスが。


「ボクが答えていい?」


 自分が活躍したい、という気持ちは俺にはない。

 誰が正解しようと、それはパーティーの正解だ。

 喜んで、ラーシェスに譲る。


「ああ」

「クモが2匹。アリが4匹」


 ――ピンポーン


 今度は正解を告げる音が鳴る。

 もちろん、金だらいは落ちてこない。


「こういうの好きなんだよね。実家にあった本でいっぱいやったんだ」


 アリクモ算は有名ではあるが、それを解ける冒険者は少ない。

 ラーシェスの意外な特技が明らかになった。

 ひょっとすると、ボルテンダールは自らの子孫のため、その本を残したのかもしれない。


「どうやって考えるの?」

「まずね、全部アリだとするの。そうすると足の数は36本で4本不足している」


 6かける6で36だ。


「アリを1匹減らして、クモを1匹増やすと、足は2本増える。だから、クモは2匹で、アリは4匹」


 ああ、分かりやすい説明だ。

 リンカも隣で感心している。


「凄いです」

「ああ、ここはラーシェスに任せられそうだね」

「任せてっ!」


 一問正解しても、部屋に変化はない。

 謎解きは、まだ終わりじゃないようだ。


「次の問題――」


 先ほどと同じ声が響く。


「檻の中にジャイアントスパイダーとソルジャーアントが合わせて8匹入っている。足の数は合わせて58本ある。1日後、それぞれ何匹いる?」


 声が告げる。


「今度は俺が答えても良いかな?」

「うん」


 ラーシェスがイタズラっ子みたいな顔をしている。

 その顔が気になったが、俺はラーシェスに教わったやり方で考えてみる。


 まず、全部アリだとすると、6かける8で48。

 これだと10本足りない。なので、クモが5匹。

 残りは8ひく5で3匹だ。


「クモが5匹、アリが3匹だ」


 ――ブブー。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダール墳墓攻略二度目(7)』


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