第235話 ボルテンダール墳墓攻略二度目(7)

 俺の頭に金だらいが落ちてきた。


 ――ガン。


 コレは痛い!

 俺は悶絶する。

 エルティアの気持ちが分かった。

 それと同じくらい、エルティアのように間違えたのが悔しかった。


「檻の中にジャイアントスパイダーとソルジャーアントが合わせて8匹入っている。足の数は合わせて58本ある。1日後、それぞれ何匹いる?」


 俺は問題を確認し、もう一度計算してみる。

 うん。計算は間違えていない。

 なら、どうして……。


 一生懸命に考えても、どうやっても、答が分からない。


「リンカは分かる?」

「分からないです」

「私なら分かるぞ!」

「…………」


 聞いていないのに、エルティアが割り込んできたので、軽くスルー。


「ラーシェスは?」

「ボクが答えて良い?」

「お願いするよ」


 この中で正解にたどり着けるとしたら、彼女しかいない。


「答はクモが5匹。アリが0匹だよ」


 ――ピンポーン


「えっ、どういうこと?」


 合わせて8匹だったはず……。


「レントのクモが5匹ってところまでは合ってるんだよ」

「どういうこと?」

「計算間違いじゃないよ。これねえ、引っかけ問題だよ。『1日後』に注意しないと」

「あっ!」

「そうことですか!」

「ほう。私が考えていたのと、同じ答だな」

「そうです。1日もあれば、ソルジャーアントは皆、ジャイアントスパイダーに食べられちゃう。だから、残るのはクモ5匹」


 ――ゴゴゴゴゴ。


 音とともに壁が動き、先へと続く道が出来た。

 その先に進むことにしたが――頭が痛い。


 モンスターとの戦いで、これより酷い怪我をしたことは何度でもある。

 だが、金だらい攻撃は、今までに経験したことのない不思議な痛みだ。

 小さなたんこぶが出来ただけ。

 なのに回復ポーションを飲んでも痛みは消えなかった。


 それはエルティアも同じようで。

 痛みに耐えながら沈黙を保っているが、ときおり「ううう」と小さな声を漏らす。

 彼女に初めて共感を覚えた。


「敵が来るッス」


 アンガーの注意に俺たちは臨戦態勢に切り替える。


「あれは――」

「ゴーレムか」

「入り口の奴より強いッス。けど、姐御なら楽勝ッス」

「リンカ、さっきの壁のような弱点の線は見える?」

「ボンヤリとしか見えません」

「イータ?」

「腰の上ニャ」


 リンカは目を細め、ゴーレムの腰上を注視する。


「見えました。行ってきます」


 鈍重なゴーレムに近づくと、リンカは腰を落とす。


参之太刀さんのたちは先の先――かかるも退くも足はただ居つかぬやうに使ふなり。右手をば陽にあらはし、左手は陰にかへして、斬るにあり」


 ――ちん。


 横薙ぎされた冥土がゴーレムを上下真っ二つにし。

 突き出された穢土がゴーレムの核を砕く。


 核を破壊されたゴーレムは、姿を止められず、砂になって消滅した。


「余裕でした」

「また強くなったね」

「リンカ、凄い」

「姐御なら当然ッス」


 その後も、ゴーレムを倒しながら進む。

 そして、また、突き当たりにたどり着いた。


 今度は、壁ではなく。扉があった。

 扉の横には赤と青のスイッチ。


 みんなの顔を見ると、同じ気持ちのようだ。


「よし、行こう」


 扉の先には、さっきと同じような小部屋。

 違いといえば、奥の壁に石版が貼り付けられていること。


「なにかな?」

「また、問題でしょうか?」

「見てみよう」


 石版には、こう書かれていた。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


『ラーシェスの血を引く者よ。我が問いかけに応えてみせよ』


   タートル被害の話

   最初に助けるの右側

   後は無視


 1. カタナ(1,2,1,3)

 2.(4,3,4,8,6,5)


 これらのヒントをもとに、次の暗号を解け


   ハンターの弟子

   赤の覇気

   ある花の日


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「これは……なぞなぞか?」

「うん。ご先祖様、こういうのが好きみたいね」


 エルティアなら、さっきみたいに直感だけで適当な答を言いそうだ。

 そう思って彼女の方を見ると――。


「………………」


 黙って石版に視線を送ったり、指を折って数えてたりする。

 きっと文章が難しすぎて、答える以前のところで躓いているのだろう。


 とはいえ、俺も人のことは笑えない。

 見ただけでは、とっかかりすら掴めない。

 それはリンカも同じで、眉をひそめ、首をかしげている。


 ただ一人、顔に余裕を浮かべている。


「もしかして、ラーシェス」

「うん。分かったよ」

「もう、閃いたの?」

「あー、違う違う。ヒラメキじゃないよ」

「どういう意味?」

「普通の人はそう思うけど、4つのテクニックを使ってるだけなんだ」


 そう言って、彼女は指を1本立てる。


「まずは『観察力』。問題文にある違和感に気付くこと。クモアリ算の場合は『1日後』っていう、本来は必要のない単語が入ってることに気付けるかどうか」


 二本目の指を立てる。


「次は『知識』。なぞなぞの解き方って限られてるんだよね。そのパターンをどれだけ知ってるか。簡単な問題だと、知ってるだけで解ける問題が多いんだ。クモアリ算はその典型だね」


 三本目。


「あとは『消去法』だね。知ってるパターンを片っ端から試して、当てはまらなパターンを消していけば、そのうち正解パターンにたどりつける」


 四本目。


「最後は『組み合わせ』。知ってるパターンを組み合わせるんだ。良いなぞなぞはパターンの組み合わせが絶妙なんだよね」


 彼女の説明に俺とリンカは感心する。

 もう一人は最初の5文字目くらいで、理解するのを諦めたようだ。


「この問題の難易度は5段階でいうとレベル3。優しすぎず、難しすぎない。慣れていない人には難しいけど、なぞなぞ好きには簡単。そういう難易度だよ」


 俺とリンカは前者。

 ラーシェスは後者。

 ということか。


「じゃあ、まずは1.のヒントから考えてみよっか」







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『なぞなぞ:ヒント1』


なぞなぞの解き方は1ステップずつヒントを与えていきます。


第236話:ひとつ目のヒント 17日

第237話:ふたつ目のヒント 18日

第238話:みっつ目のヒント 19日

第239話:正解発表     20日


じっくり考えたい、なぞなぞに興味ない方は第240話(22日投稿)までスキップしてください


感想欄でのネタバレはお控えください。

代わりに近況ノートに記事を作りました。

そちらはネタバレ・解答OKです。

↓↓↓

https://kakuyomu.jp/users/maskichi13/news/16818093077453721302



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