第233話 ボルテンダール墳墓攻略二度目(5)


「魂の話をしていたようだが、私からも言えることがあるぞ」

「それは?」


 今までの彼女からして、トンチンカンなことを言い出すと思ったのだが――。

 いつになく真剣な表情で彼女は続ける。

 俺だけでなく、他の二人も真面目な顔になり、エルティアの話に耳を傾ける。


「精霊が教えてくれたのだが、この世のものには精霊が宿っている」

「精霊魔法は、その精霊に働きかけるってことだよな」

「ああ、しかし、精霊が宿らないものがある。それは生き物だ」


 精霊魔法は風を起こしたり、火を動かしたり、自然を操作することが可能だ。


「だが、命あるものに精霊は働きかけることが出来ない」


 人間の身体の大部分は水からなっている。

 もし、水精霊が人体にある水を沸騰させたり出来れば最強だ。

 しかし、精霊魔法はそこまで万能ではない。


「そのかわり、生き物には別のものが宿り、それによって動いている――それが魂と呼ぶものらしい」

「…………」

「精霊が教えてくれたことだ」

「魂か……」

「先日、私が言ったであろう。このダンジョンには壊せる壁と壊せない壁があると」

「それは、つまり、壊せない壁は生きていると?」

「うむ。命あるものが動けるものだけではないのだ」

「ということは、リンカが見えた線ってのがあの壁の魂なのかな?」

「たぶん、そうなのかも知れませんね」


 ラーシェスの問いにリンカが答える。


「イータ、それが見えた?」

「そうニャ。それがイータの力ニャ」


 イータの能力は相手の弱点が分かるものだと思っていた。

 だが、今の言葉が真実なら、それ以上の意味を持つ。


「ご褒美に魔力を上げる」

「美味しいニャ」


 飴と鞭。

 ラーシェスはイータを上手に飼い慣らしている。

 エルティアは話を再開した。


「魂がある程度壊れれば、生き物は死ぬ。通常はそれで十分だ」

「それが殺すということか」

「ああ。そして、お前たちの力は、それでけでなく、魂自体を殺すもののようだな」


 それが俺たちの力か……。


「さあ、辛気くさい話はこれまでだ。楽しい冒険を再開しよう!」


 いつも通り戻ったエルティアは、待ちきれないという顔で手を挙げる。

 意識してか、無意識か。

 この切り替え、やっぱり、彼女には人を惹きつける力があるな。


「レント、先頭は任せたぞ。私は話したくなったら手を上げる。それまではちゃんと黙っておくから、プレスティトに良く言ってくれ」


 それっきり、彼女は口を閉ざした。

 俺たちは壁の先の道を進んでいく。

 途中は分岐もなく、一本道だった。


「これは俺がいなかったら厳しかったな」

「はい、レントさんのおかげです」

「リンカは疲れていない?」

「連発ではなく、時間をおいてなので平気です」


 道中、さっきと同じ命を持つ壁がいくつもあった。

 その度にリンカに壊してもらったのだが、【参之太刀】の魔力消費はバカにならない。

 魔力回復ポーションだけでは、追いつかなかっただろう。

 この間、赤スイッチ・青スイッチの転移装置がなかった。

 きっと、一度、外に出たら、最初からやり直しだろう。

 俺の【魔力貸与】が前提となる試練のようだ。

 もしくは魂を斬れる他のSSSギフトの持ち主を前提としているのか。


 歩き続けると、やがて、部屋に突き当たった。

 扉の横には例の2つのスイッチがある。


「レントさん、どうします?」


 青スイッチを押して、今日の攻略を中止するか。

 赤スイッチを押して、この先に進むか。


「リンカはまだ戦える?」

「万全です!」

「ラーシェスは?」

「ボクも行けるよ。というか、行きたい」

「エルティアは?」


 俺の問いかけに彼女は両手をブンブン振り回せいて、やる気をアピールする。


「じゃあ、開けてみよう」


 俺が赤スイッチを押すと、壁が上にせり上がる。


「ここは……」


 外から見た限り、3メートル四方でなにもない部屋だ。


「アンガー?」

「大丈夫ッス。罠はないッス」

「エルティア?」

「精霊も危険はないと言っているぞ」

「よし、入ろう」


 中に入ることによって、ギミックが発動するのだろう。

 モンスターが出現するかもしれないので、油断は禁物だ。


「私が行きます」

「頼むよ」


 リンカがカタナの柄に手を添えたまま部屋に入り、俺たちもそれに続く。


「ここは、謎の間――」


 フラニスの試練と同様、どこからともなく男性の声が聞こえてくる。

 謎解きか――エルティアの出番はないな。

 声は続く――。


「檻の中にジャイアントスパイダーとソルジャーアントが合わせて6匹入っている。足の数は合わせて40本ある――」


 声が告げる。


「――それぞれ何匹?」


 ああ、有名なアリクモ算ってやつか。

 ジンさんがこういうの得意だったよな。

 ジャイアントスパイダーの足は8本。

 ソルジャーアントの足は6本だ。


 その答は――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダール墳墓攻略二度目(6)』


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