第232話 ボルテンダール墳墓攻略二度目(4)


 彼女は壁から離れ、壁に向かう。


 腰を腰を落とし、かかとを上げる。

 彼女のユニークウェポンである幽冥二刀ヘル・アウェイツ

 長いカタナの冥土を右手に。

 短いカタナの穢土えどを左手に。

 どちらのカタナも彼女の髪色と同じスカイブルーの刀身で、向こうが透けて見えるほどの薄さだ。


「では、やってみます」


参之太刀さんのたちは先の先――かかるも退くも足はただ居つかぬやうに使ふなり。右手をば陽にあらはし、左手は陰にかへして、斬るにあり」


 ――ちん。


「あっ、今度は私も見えた!」


 前回、ラーシェスは何が起こったか分からなかった。

 だが、来ると分かっていて、よく見ていればギリギリ見える。


 リンカは屈んだ状態から前に飛び出し。

 右手の冥土で縦に斬り。

 左手の穢土で横に斬り。

 それと同時にバックステップでもとの位置に戻り。

 両のカタナを鞘にしまった。


 神速の動きが、すべてを置き去りにし、残されたのは納刀の「ちん」という高い音だけだ。

 次の瞬間、十字に斬られた壁がボロボロと崩れ落ちる。


「これが魂を割る――ということですね」


 リンカは納得した様子で、カタナの柄を撫でる。


「なにか掴んだようだね」

「はい。すべてのものには、魂を結びつける場所をがあるんです。そこを断てば、存在できなくなります」


 アンガーが言っていたことは本当だった。

 リンカは【阿修羅道】を満足させる方法を手にしたのだ。


「これで人を斬れば、その者の魂を割れるでしょう」


 スッとリンカの表情が抜け落ち、その手が腰に伸びる――。

 ガッ。

 寸前で俺は彼女の手を掴む。


「今はそのときじゃないよ」


 俺に手を掴まれ、おぼろだった彼女に表情が戻る。


「今のは――」

「ああ」


 間違いなく内なる獸だ。

 油断すると、SSSギフトの持ち主を喰いつくさんと、虎視眈々と狙っている。


「大丈夫だよ。俺がついてる」

「レントさん……ありがとうございました」


 いつもの彼女に戻った。

 もう大丈夫。


「レントさんが呑まれそうになったときは、私が救います」

「頼りにしているよ」


 彼女に俺がいるように。

 俺には彼女がいる。


 この先どうなるかは分からない。

 でも、今はまだ安心できる――。


「ねえ、どういうこと?」


 ラーシェスの顔には疑問が浮かんでいる。

 彼女に内なる獸について詳しく説明する。


「――ふうん。そんなことがあるんだ」


 実際に体験していない彼女は、いまいちピンときていないようだ。

 彼女のギフトは【御魂喰いみたまぐい】。

 相手の魂を喰らい尽くす。

 であれば、内なる獣はラーシェス本人の魂すら喰い尽くすのだろう。


 リンカは魂を割り。

 ラーシェスは魂を喰らう。

 そして、俺の場合は魂を魔力に変え、輪廻の輪から外す。


「私がピンチになったら、二人が救ってくれるんだよね」

「ああ、もちろん」

「もちろんです!」

「なら、安心だね」


 三人の絆を確かめる。


「今のが【阿修羅道】の3つめのスキルだよね」

「はい。速さに特化したスキルです。冥土と穢土による同時攻撃。連発は出来ないようですが、大抵の相手なら、これで倒せると思います」

「連発……俺の【自動補填オートチャージ】を使えば出来るんじゃない?」

「使うことはできると思います。ただ、身体への負担が大きそうです」

「それが可能なら、まさに最強かもね。ここを出たら試して見よう」

「はい!」

「ますます先に行かれちゃったな」

「大丈夫ですよ。ラーシェスだって、立派に成長してます」

「ああ、俺たちSSSギフトは一定のスピードで成長するわけじゃない。今のリンカのように、ある出来事があって急成長するんだ」

「じゃあ、それを楽しみに待ってるよ」


 会話がひと段落し、ふと、忘れていた一人を思い出す。

 三人だけで盛り上がり、のけ者のような扱いをしてしまって申し訳ない。

 そう思ってエルティアを見る。

 落ち込んだり、しょんぼりしたりしているかと思いきや、彼女は穏やかな笑みを浮かべていた。

 不思議に思い、彼女に声をかける。


「どうしたの?」

「喋っても良いか?」

「ああ」


 彼女は俺の言いつけをちゃんと守っていた。


「魂の話をしていたようだが、私からも言えることがあるぞ」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダール墳墓攻略二度目(5)』


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