第231話 ボルテンダール墳墓攻略二度目(3)


 あっ、そういうことか!

 俺はすっかり忘れていた。

 エルティアは右と左の区別がついていないんだった。


「赤いスイッチを指差してくれ」

「簡単だな。こっちだ」


 エルティアは左側のスイッチを指差す。


「正解だ」

「だろだろ?」


 得意げなエルティアを見て、俺は決心する。

 彼女に難しい指示を出すのは止めよう。

 そして、もうひとつ――。


「エルティア」

「なんだ」

「俺が尋ねたとき以外は、喋らないこと」

「なっ……!」


 不服そうな顔だ。

 そこで俺がハリセンを見せると


「わっ、分かった。これからは『お口はシー』だ。」

「分かってくれて嬉しいよ」


 このままだと、いつまでも彼女と漫才することになるからな。

 これからは攻略に集中だ。


「進もうか……」


 俺は赤いスイッチを押す。

 そうすると、壁が上にスライドした。

 その先もこれまでと同じような通路になっている。

 ただ、ひとつ違いがある。


「色が変わりましたね」

「黒くなってるね」


 これまでは灰色の石造りだった。


「もしかして、別のエリアになってるのかもしれないですね」

「アンガー、どう?」

「この先は罠がないッス」

「分かった。もし、罠がありそうだったら教えてくれ」

「了解ッス」


 誰かと違って、アンガーは役に立つな。

 しばらく進んで行くが、アンガーの言う通り、罠はひとつもなかった。


「行き止まりか……」

「さっきと同じパターンかな?」

「いや――」


 俺が視線を向けると、アンガーは首を横に振った。


「ここにも罠はないッス」

「どういうことかな?」

「なにか別の方法があるんでしょうか?」


 二人の顔には疑問が浮かんでいる。

 エルティアを見ると、なにか言いたそうだが、俺の言いつけを守り、口をつぐんでいる。


「アンガー、他には?」

「いや、俺っちには分からないッス。駄猫、出番ッス」

「むにゃあ、なんニャ」


 ラーシェスの肩で惰眠を貪っていたイータが眠たげに目をこする。


「気付いたことをレントの兄貴に伝えるッス」


 それでも眠そうなイータの尻尾をラーシェスが掴む。


「イータちゃん。シャキッとしよっか」


 彼女はそのまま尻尾を掴み、グルグルと高速回転させる。


「にゃにゃにゃ~~~」


 屋外だと宙高く放り投げられてたが、屋内だとこういうお仕置きがあるんだ。

 目を回してクタッとしているイータにラーシェスが抑揚のない声で告げる。


「目が醒めた? それとも、もう一回いっとく?」

「ちょっと待つニャ。目が回ったニャ」

「返事が遅い」


「にゃにゃにゃ~~~」


 やっぱり、お代わりは健在だ。


「ちゃんと教えてね」

「やるニャ。真面目にやるニャ」


 へたり込みながらも、イータは行き止まりの壁に視線を向ける。

 しばらく、凝視していた後――。


「分かったニャ。この壁には十字の線が入っているニャ。そこを斬れば壊せるニャ」

「十字の線?」


 俺は壁に近づき、触れてみるが、そのようなものは見当たらない。


「適当なこと言ってるとお仕置きだよ」

「ほんとニャ。見えない線があるニャ」


 ラーシェスの手がイータの尻尾に伸び、イータが怯えると。

 リンカが壁に手を触れる。


「これなら、斬れそうです」

「見えるの?」

「目には見えません。でも、確かに感じられます」


 迷いのない表情。

 リンカの両手は自然と腰に手が伸びていた。


「任せるよ」

「はい」


 彼女は壁から離れ、壁に向かう。


 腰を落とし、かかとを上げる。

 彼女のユニークウェポンである幽冥二刀ヘル・アウェイツ

 短いカタナの穢土えどを左手に。

 長いカタナの冥土を右手に。

 どちらもカタナも彼女の髪色と同じスカイブルーの刀身で、向こうが透けて見えるほどの薄さだ。


「では、やってみます」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダール墳墓攻略二度目(4)』


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