第229話 ボルテンダール墳墓攻略二度目(1)


 ――翌日。


 俺たちは朝早くからボルテンダールの試練に挑む。


「よし、今日も攻略していくぞ!」


 今日もやる気全開のエルティアを先頭に俺たちは墳墓に入る。


「む?」


 エルティアは入るなり眉をひそめる。

 理由は前回と同じく、空気が淀んでいたから。

 二日しか経っていないの、また、淀んでいるのか。


「風精霊よ」


 彼女は風精霊に命じ、空気を清浄化する。

 というか、俺が何か言う前に彼女が勝手に命令していた。


 彼女は前回の【緊急貸与】の返済がある。

 攻略がある日は4000MPが使って良い上限だ。


「エルティア、勝手に精霊を使ったらダメだ」

「む?」


 まあ、いずれにせよ今回は彼女に頼むつもりだったから良いけど。

 この前のプレスティトさんの説教を覚えているかどうかも問題だ。


 なので放っておいたら、精霊魔法で無駄遣いし、本当に必要な場面では魔力切れ――ということになりそうだ。

 だから、一度、たしなめておく。


「俺が命令したとき以外は、精霊魔法は禁止だ」

「そんな、殺生な。いいではないか!」


 うん。

 間違いなく、お説教のことは忘れてるな……。

 だが、大丈夫。

 今の俺には、エルティアに言うことを聞かせる最終兵器がある。


 ――パァン。


「痛ッ!」


 最終兵器――プレスティトさんから借りたハリセンだ。

 彼女が言うには、「これで言うこと聞くように躾けてあります。遠慮なくスパァンとやっちゃって下さい」だと。

 なので、俺は躊躇わずにハリセンを使う。


 エルティアは頭を抱えてうずくまる。

 ただの紙製ハリセンだから、痛みはない。

 だが、プレスティトの躾けによって、精神的なダメージがあるようだ。


「なっ、それはダメだ。それだけは止めてくれ」

「勝手に精霊魔法を使わないこと」

「わっ、分かった。だから、ハリセンで叩かないでくれ」

「それはエルティア次第だ」

「ああ、気をつける」


 俺とエルティアのやり取りを、リンカとラーシェスは笑いながら見ている。


「まるで、ペットの躾ですね」

「ペットの方が言うこと聞くかもだね」

「失礼な!」

「確かに、ペットに失礼だな」

「そうだろ!」


 エルティアは俺に乗っかって、得意顔をする。

 やっぱり、俺の皮肉は理解できてない。


「あらためて、進もうか」

「はい!」

「了解だよ」

「私に先頭をやらせてくれ!」


 前回はエルティアが先頭だった。

 魔力を使い放題で精霊の力で罠をゴリ押しして進んでいった。

 だが、魔力制限のある今回は、その方法は取れない。

 真っ当な方法で攻略していくしかないのだ。


「俺が先頭で」

「むぅ。私が――」


 ――パァン。


「痛ッ!」


 エルティアは頭をさする。


「ごめんなさい」


 エルティアが素直に謝ったので、俺は進み始めようとしたら――。


「レントの兄貴」


 アンガーに呼び止められた。


「どうした?」

「前回と罠の配置が変わってるッス」

「そうか……」


 やはり、真っ当に行くしかないか……。

 毎回、罠の配置が変わるとなると、攻略がしんどいな。

 ボルテンダールの試練はそう甘くないようだ。


 そこから、アンガーの指示を聞きつつ、ゆっくり慎重に進んでいく。

 そして、前回、攻略を中断した例の転移罠がある壁の前にたどり着いた。


「罠はそのままですね」

「ああ……今度は俺が行くよ」

「大丈夫かな?」

「エルティアには任せられないからね」

「仕方ない。精霊がいないと私はなにも出来ないからな」


 彼女は開き直ったように胸を張る。


「エルティア、訊きたいことがある」

「よし。訊いてみろ? 何でも答えてやるぞ?」


 何でもと言うが、「3足す5は?」と尋ねたら、正しい答は返ってこないだろう。

 ちょっと不安になるが、彼女の記憶力を信じてみようと、俺は問いかける。


「飛ばされた先にモンスターはいた?」

「うーん……」


 ああ、これは覚えていないパターンだな……。


「ちょっとまて、聞いてみる?」

「聞く?」

「ああ」


 そう言うと、エルティアは小声でブツブツとつぶやき始めた。

 はたから見ると、唯の不審者だが――俺も最初の頃、馬車の中で他人に見えないエムピーと会話した経験があるので笑えない。


「よし、思い出したぞ!」


 エルティアは自信満々は笑顔を見せた――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダール墳墓攻略二度目(2)』


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