第227話 休日のお買い物(5)


「あれは……」


 リンカの視線の先にはがひとつの武器が置かれていた。


「リンカ?」

「…………」


 声をかけても返事がない。


「リンカちゃん、どうしちゃったんだろう?」


 ラーシェスの問いかけにも、反応しない。


「いえ、あの武器が気になって」

「カタナ?」


 以前、出会ったムネヨシという男を思い出す。

 【サムライ】のギフト持ちの男だ。

 彼から勧められて、リンカはキモノという服を装備することになった。

 同時に、カタナと呼ばれる片刃の剣をも勧められた。


 あのときはお金もなく、死骨剣で十分だったので、購入までは至らなかった。

 だが、今は伯爵のおかげでお金はたっぷりとある。


 そして――。


「さすが、お目が高いです。東方のエードゥから仕入れた一級品です。試してみてはいかがでしょうか?」


 調整が終わったのだろうか、店主が声をかけてきた。


 リンカの肩がピクっと揺れる.

 そして、俺の方を見たので、俺は頷く。

 彼女も俺と同じことを考えたようだ。


「ユニークウェポン……?」


 リンカの口から言葉が漏れ出る。


 ユニークウェポン――それはSSSギフトの持ち主の能力を最大限に引き出す武器。

 ラーシェスの場合は血統斧レイン・イン・ブラッドがユニークウェポンだ。


 あの時、ラーシェスは普通の斧に吸い寄せられるように、自然に手に取った。

 その瞬間、斧が禍々しい血統斧レイン・イン・ブラッドへと姿を変えたのだ。


 リンカも同じように、カタナに手を伸ばす。

 そして、カタナを握ると――。


 カタナはすっとリンカの手の内に収まる。

 だが、それだけだった。

 カタナはリンカのユニークウェポンではなかった。


「…………」


 期待が大きかったのだろう。

 本日、初めてリンカが肩を落として落胆する。


 いかにもリンカ向きの武器だ。

 正直、俺も期待していた。

 確信していたかもしれない。

 それでも、カタナはリンカを選ばなかった。


「でも、なにか感じます。魂がザワつくというか……」

「ねえ、リンカ」


 落ち込むリンカに話しかける。

 彼女を励ましたいし、俺自身が気になっていることもある。


「そもそも、リンカはなんで剣を選んだの?」


 俺とリンカの出会いは、クアッド・スケルトンと彼女が戦っていたときだ。

 仲間に囮にされ、土壁で退路をふさがれ、それでも、彼女は気丈に戦っていた。


 あのときも、彼女は剣を使っていた。

 戦い振りから判断するに、一朝一夕に身につけた剣術ではないと分かった。


「SSSギフト――【阿修羅道】のせいです」


 リンカは過去を噛みしめるように話し出す。


「ギフトを授かった瞬間から『斬れ。敵を斬り尽くせ』との声が頭の中で止まらなく。剣を選ぶしかなかったんです」


 やはり、SSSギフトのせいか。


「剣で戦っているうちは、声が止まるんです。今まではそうでした。でも……」


 リンカは唇を噛む。


「最近は……。死骨剣は良い剣だと思います。それでも、ギフトは満足してくれないんです。だから、カタナが代わりになればと思ったのですが……」


 そこまで語って、リンカはその場に崩れ落ちる。

 ぽたり、ぽたり、と涙が床を塗らす。


 かける言葉が見つからない。

 気休めの慰めではダメだ。

 俺に何が出来る――。


「アンガー、いるだろ?」

「うっす。レントの兄貴」


 いつも通り、特効服姿のアンガーが腕組みして現れる。


「何が足りない? リンカには何が欠けている?」


 モンスター退治なら、十分にやっている。

 それでも【阿修羅道】が満足していない理由がある。


「【憤怒】が足りないッス」

「どういうことだ?」

「【阿修羅道】で斬るのは敵の身体だけじゃないッス。敵の魂を斬る――それが本当の【阿修羅道】ッス」


 俺の眉がピクッ動く。

 エムピーの言葉を思い出したからだ。

 彼女は言っていた。

 リボ払いの返済が滞ると、最終的には魂が消滅し、無限の闇を彷徨うことになると。


 それと同じなのだろう。

 殺すだけでなく、魂も斬り裂く。

 そうでないと【阿修羅道】は満足しない。


 ゾクリ。

 背中に冷たい汗が流れた――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『休日のお買い物(6)』


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