第226話 休日のお買い物(4)
ラーシェスと二人で和んでいると、リンカが戻って来た。
「どうでしょう?」
「うーん。なかなかね。ユニークウェポンどころか、買い換えたくなるような武器も見つからない。そっちはどう?」
「こっちは合わせが済んで、後は調整待ちです」
「ねえねえ、こっちの方で面白武器コーナーがあったよ!」
「面白武器?」
怪訝に思いながらも、ラーシェスに連れられて、店の奥に向かう。
そこは武器屋とは思えない、異様な空間だった。
そこには「これが武器?」といった雑多な物が陳列されていた。
浮かれるラーシェスの横では、店員の女性が困惑した顔で立っている。
「これ、どうかな?」
ラーシェスが自信満々に取り出してきた物は、タイヤが一つ。タイヤから伸びる棒の先にはサドルがついている。
「一輪車?」
「うん! これなら、移動も速いし、こうやって、回転攻撃ができるんだ」
ラーシェスは一輪車に飛び乗ると、斧を水平にして、その場でクルクルと回り出した。
「ほら、この通り!」
「うーん……」
いや、それは……。
リンカと顔を見合わせて苦笑する。
どう考えても、実戦向きじゃない。
「ちょっと、構えてて」
「うん!」
「リンカ」
「はい!」
ドヤ顔のラーシェスに向かってリンカがハイキック。
ラーシェスは腕を上げてそれをガードする。
ガードしたが……。
――ドシン。
期待通りにスッ転んでくれた。
「まあ、そうなるよな」
「うーん。イケると思ったんだけどなあ」
あんな不安定な状態で、攻撃を受けられるわけがない。
いや、後衛の移動手段ならアリか?
一瞬、考えるが、いや、ないよな。
「じゃあ、これは?」
次に取り出したのは丸い金属板。取っ手のような物がついている。
「…………鍋のふただよね?」
「うん! 戦えて、料理にも使える!」
「普通の盾の方がイイよね」
野営の際に、盾を鍋や鉄板代わりにすることは、ままある。
だが、鍋のふたで盾の代わりになるわけがない。
もしそうなら、主婦や料理人は最強職だ。
「うーん。じゃあ、これは?」
ラーシェスが取り出したのは長い柄、その先端に三つ叉のフォークのように金属がついてる。
「新型の槍だよ。このタイプは斬新でしょ?」
「鍬。それ農具だよ」
「えーじゃあコレは?」
「鋤。それも農具」
「ダメかな~」
俺たちは冒険者。農夫ではない。
敵は畑ではなく、ダンジョンにいるのだ。
「じゃあ、最後にこれ。これはビックリするよ」
金属棒だ。赤く塗られた先端が曲がっている。
「却下。それは『バールのようなもの』だ」
「えー、なにそれ、『バール』じゃないの?」
「ああ、『バール』と『バールのようなもの』は似ているようで、まったくの別物なんだ」
「そうなんだ」
「冒険者になったばかりのラーシェスには違いが分からなくて当然だから、気落ちすることないよ」
実は、俺もいまいち違いが分かっていないが、面倒くさそうなので知ったかでごまかす。
「うーん……ダメかな?」
「ダメだよ」
「店員さんは、『これなら締まっている金庫も開けられますよ』って言ってたのに」
チラと店員さんに目を向けると、露骨に視線を逸らされた。
ダメでしょ、店員さん。貴族令嬢に変なこと教え込まないでよ。
「うん。ダメ」
無垢な少女を悪の道に引きずり込むわけにはいかない。
ただ、今まで紹介されたうちでは一番まともだった。
冒険者の中にはバールで無双する人もいるらしいし。
でも、俺にはちょっと違うと思う。
正直、ラーシェスが挙げた中に、俺のユニークウェポンがなくて、本当に良かったと、心の中で安堵する。
「うーん、ダメだったか……」
ラーシェスは首をかしげる。
なんで、伯爵はこんな武器(?)を仕入れたのか?
あれか、親バカが張り切り過ぎて、空回りしちゃったのか?
まあ、ラーシェスが喜んでいるので、ある意味、作戦成功だったのかも知れない。
落ち込むラーシェスを見ていると、リンカが呟く。
彼女は早々と見切りをつけて、他の棚をチラチラ見ていたようだ。
「あれは……」
リンカの視線の先にはがひとつの武器が置かれていた。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『休日のお買い物(5)』
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