第225話 休日のお買い物(3)


 店内に戻ると、リンカは店員に案内され、更衣室に向かった。


「私は着替えてきますね」


 手甲・脚甲の装備感、ハカマのスリットをどうするかを相談するためだ。

 隣を見ると、ラーシェスはソワソワとした様子だ。彼女は武器屋に入ってから浮かれっぱなしだ。

 子どもの頃から冒険者に憧れていただけあって、武器への思いも人一倍なのだろう。


「好きに見ていいかな?」

「説明いたしましょうか?」

「平気だよ」


 ラーシェスの問いに店員が答える。

 彼女はそれを聞く前に、散歩に連れて行ってもらう犬のように走り出した。

 いろんな武器を見るのは彼女にとって良い経験だ。


 俺がアドバイスしても良いのだが、彼女から尋ねられるまでは放っておく。

 頼まれてもいないアドバイスは大きなお世話だから。


 しばらく時間がかかるということで、俺も店内の武器を見て回る。

 俺のユニークウェポンが見つかるかもしれないし、見つけられなかったとしても、新しい武器に買い換えるつもりだ。


 今の俺の物理攻撃スキルは【短剣術LV1】だけだ。武器は古くなった短剣だけ。

 短剣を使っているのには特別な理由があるわけではない。昔から使っていて一番馴染みがあるという惰性だ。


 武器スキルに関しては――。


 LV1が1,000MP。

 LV2が10,000MP。

 LV3が100,000MP。


 LV2までは余裕で購入できるし、LV3も2日ガマンすれば買える量だ。

 なので、剣だったり、槍だったり、斧だったり――選択肢はいくつもある。

 しいていえば、遠距離は魔法で対応出来るから、近距離戦向きの武器がいいかな。


 リンカとラーシェスの前衛が強すぎるから、出番は少ないだろうが、念のためにひとつは使えるようになっておきたい。

 リンカも体術の訓練をしていくので、俺も誰かに教わるべきだと思っている。

 『流星群』や『双頭の銀狼』がいれば良いのだが、仕方がない。


 ともあれ、ユニークウェポンがあれば、ラーシェスのときと同じく、すぐに気付くだろう。なので、軽くで良いから、まずは店の武器を全部見てみよう。


 この店は伯爵配下の騎士団御用達で、この街一番の武器屋だ。

 とはいえ、品揃えが豊富すぎる、というのが俺の印象だ。


 そもそも、騎士と冒険者とでは、武器に求められるものが異なる。

 騎士は集団、人数で戦う。

 敵として想定されるのは集団の人間。

 剣にしろ、槍にしろ、同じ規格の物を用いて、均質化することによって威力を発揮するのだ。


 それに対して、冒険者は少人数でモンスターと戦う。

 モンスターは様々だ。体型、弱点、攻撃方法、全てがことなる。

 こちらがどんな、武器・魔法を準備していても、いつでも万全というわけにはいかない。

 何を切り捨てるのかが必要となり、そのためにパーティーが存在する。

 足りない部分を互いに補い合い、足し算以上の力を発揮する――それが良いパーティーだ。

 フーガさんも言っていた。


 ――パーティーメンバーは足し算じゃない。かけ算だ。


 ともあれ、この街にこの規模の武器屋でやっていけるんだろうか――と思い、すぐに理由に気がつく。

 先日、ラーシェスとこの店を訪れたときから、この店はこの調子だった。

 俺たちが来ることを予想する以前から、この店はあったのだ。

 ということは――親バカだ。

 冒険者に憧れていた愛娘が冒険者になった喜びはひとしおだったろう。

 伯爵のことだから、娘用にわざわざ過剰とも言える武器屋を用意したのだ。


 どうりで、よりどりみどりに武器が並んでいるわけだ。

 とはいえ――。


「なかなか、ピンと来る物がないな……」


 半分くらい見て回ったが、特に惹かれる武器はない。


「レント、どう?」


 ラーシェスと合流した。


「そっちは?」

「楽しかった! でも、買いたいと思える物はなかったな。武器を変えたら血統斧レイン・イン・ブラッドが嫉妬しそうだし」

「ははは」


 和んでいると、リンカが戻って来た。


「どうでしょう?」







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『休日のお買い物(4)』


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