第223話 休日のお買い物(1)


 ――翌日。


 買い物をするために、俺たち三人は街に繰り出した。

 この街に来てから、大忙しで、ゆっくり街を見る余裕もなかったな。

 思い出してみたら――。


 伯爵の依頼を受けるために、双頭の銀狼の二人とこの街に来て。

 ラーシェスを救うために、魔力貸与して。

 彼女のサポート妖精であるイータと出会い。

 双頭の銀狼の二人と一緒に、サンドゴーレム狩りをして。

 【魔蔵庫貸与】を習得して、一般公開して。

 フラニスの試練に一度目の挑戦をして。

 シャノンさんとナミリアさんに修行につき合ってもらって、無属性魔法と付与魔法をマスターして。

 フラニスの試練をクリアして。

 ボルテンダールの試練に挑み始めて。


 この街に来てからまだ一ヶ月も経っていないけど、ずいぶんと密度の濃い時間を過ごしたものだ。


「良い街だね」


 大迷宮のあるメルバの街に比べたら、ずいぶんと小さな街だ。

 冒険者の割合が少ないからだろうか、落ち着いた空気だ。


「でしょ?」


 ラーシェスが胸を張って応える。

 通りを歩いていると、人々から挨拶される。

 それだけ、彼女が、伯爵家が慕われているということだ。


「そういえば、ラーシェス、アレはどうだった?」

「うん。修理液リペアリキッドを染み込ませて拭いてみたんだけど、切れ味が良くなったよ」


 嬉しそうにラーシェスが告げる。

 禍々しく恐ろしい血統斧レイン・イン・ブラッド

 磨かれて鈍く光り、より残虐に見える。

 敵でなくて、味方で良かったと思わせるほどだ。


「ジンさんに感謝しないとね」

「うん!」


 俺たちが向かうのは、先日訪れた武器屋だ。

 メインはリンカの手甲と脚甲を買うためだが、他に良い物があったら、買ってもいいだろう。

 伯爵からいただいたお金は、Bランクパーティーでもなかなか稼げない金額だ。


「いらっしゃいませ。お嬢様、レント様、リンカ様。この度はまことにありがとうございます」


 武器屋には事前に連絡してあるので、店先には店主の男を始め、店員一同が並んで待っていた。

 俺たちが現れると、皆は頭が地面につくんじゃないか、というくらい頭を下げる。


「レント様のおかげで、売上げ倍増です。感謝してもしきれません。今日は貸し切りにしておりますので、心ゆくまでお選び下さい」

「最初に頼んでいたものから見せてもらおうかな」

「承知いたしました。では、こちらの方へ」


 店長は武器が陳列されている棚を右手に、カウンターを左手に、店の奥へと進んでいく。

 俺たちはその後をついていくが、ラーシェスは物珍しそうに棚に視線を向けて、キョロキョロしている。

 前回は、すぐに血統斧レイン・イン・ブラッドを手に入れ、他の武器コーナーはほとんど見なかったので、彼女は興味津々のようだ。

 店の奥の突き当たりには外へ続く扉があるが、今は開かれている。


「こちらでございます」


 扉を抜けると外に出た。

 そこは武器を試すための場所だ。

 冒険者ギルドの練習場のように、柱や的が並んでいる。

 地面は剥き出しで、今は俺たち以外は誰もいない。


「こちらにおかけ下さい」


 武器屋には不似合いな、伯爵家に置かれていても違和感がない、高級で立派なソファーだ。

 屋外に置かれているのに汚れは一切ない。俺たちのためにわざわざ運でくれたのだろう。

 ここまでしてくれなくても良いのに……。


 ソファーに座ると、柔らかく沈む。

 一度座ったら、立ち上がれなくなるんじゃないかと思わせるほどの座り心地だ。


 ソファーの前にはテーブルがあり、手甲・脚甲のセットが5つ置かれている。

 どれも銀色に輝く輝くミスリル製だ。

 普通の冒険者にとっては、ミスリルが最高級素材だ。

 これより上のオリハルコンとかはAランク冒険者向けで、その場合は既製品がなく、オーダーメイドするしかない。


「それでは、説明させていただきます」

「ああ、大丈夫です。先入観なしに選びたいので」

「承知いたしました」


 店長が商品説明を始めそうなところを、俺は制止する。

 人は値段が高い物ほど、優れているように思ってしまうからだ。


「リンカが気になるのから試してみなよ」

「はい」


 並べられたものリンカは順番に見ていく――。


「いろんな形があるんですね」


 一番の違いは、どこまで覆うかだ。

 手甲でいえば、肘や手の甲まで覆うかどうか。

 脚甲でいえば、膝や足の甲まで覆うかどうか。


 どちらが良いとは一概に言えない。

 肘まで覆うタイプだと、肘攻撃ができるが、その分、動きが阻害される。

 また、手甲・脚甲は攻撃だけでなく、防御の役割も果たす。

 機敏性を求めるなら、最小限の装備にするべきだし、インファイトでゴリゴリに殴り合うなら、覆う範囲が大きい方が良い。


「まずはこれを――」


 リンカが指差したのは、一番覆いが広いタイプだ。

 肘、手の甲、膝、足の甲まで覆っている。


「では、失礼します」


 店長が部下の男に合図する。

 男は手甲を持ち、リンカに装着しようとするが、リンカはそれを止める。


「自分でつけてみます」


 リンカはあまり気にしていないようだが、俺は少し期待していた。

 ラーシェスの血統斧レイン・イン・ブラッドと同じように、手甲・脚甲がリンカのユニークウェポンだったら……。

 ともに同じミスリル製ということも、期待に拍車をかける。

 俺が期待する中、男から受け取った手甲をリンカが装着する――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『休日のお買い物(2)』


楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る