第222話 お説教(2)

「こんな感じで2週間の返済プランでどうでしょうか?」

「良いです~。初回ですし、延滞利息は1日0.1%で行きましょ~」


 延滞利息は返済期限に返しきれなかった場合の利息だ。

 【緊急貸与】の場合は、返済期限が7日なので、8日目から発生する。

 1週間で半分返せるとしたら、残り5万の0.01%なので、1日50MPだ。


「そんなに低くていいんですか?」

「エルティアは将来有望です~。今後もご贔屓ひいきに~」

「そうはさせませんよ。私が見張ってますので」


 二人とも笑顔だが、その裏でバチバチと視線がぶつかり合っている。

 今までは【魔蔵庫貸与】を普及させるという共通の目的だったが、今回は真っ向から対立しているからだ。


 エムピーは、創世神ユグドラシルは、エルティアのことまで予測していたのだろうか……。

 二人の笑顔からはうかがい知れない。


「なっ、なあ、もう足を崩していいか? 痺れてきてツラいんだ」


 ――パァン。


 場の空気を読まないエルティアにハリセンが下される。


「さて、それではお仕置きタイムです」


 プレスティトさんはエルティアに向かい直り、ハリセンをポンポンする。

 スッと視線が冷たくなった。


「ひっ」


 エルティアが怯え声を上げる。

 プレスティトさんは書類の束を掴む。

 20センチくらいの厚さだ。

 その紙束を、ドシッとエルティアの膝に乗せる。


「いたいいい!」


 エルティアの絶叫が室内に響く。

 だが、プレスティトさんは容赦しない。


「これが今日の分です。そして――」


 ――ドン。


「これが明日の分です」

「あああああああ!」


 紙束が積み重なり、エルティアの顎まで届く。

 痺れた足にコレは拷問だ。

 エルティアは歯を食いしばって耐えるが、プレスティトさんはその手にペンを握らせる。

 ギルド業務に関する書類はすべてプレスティトさんがこなしている。

 エルティアの仕事は裁可のサインを書くだけだ。

 なのだが、これだけの量だと、どれくらい時間がかかることやら。


「これが終わらないと、明後日は参加できません。絶対に終わらせて下さい」


 鬼だ。


「さすがに、やり過ぎでは?」

「躾ですので。これは家庭の問題です」


 そう言われてしまえば、これ以上は口を挟めない。

 親が子どもにやるのであれば、「虐待だ」と言えるが、この場合、親子が逆だからなあ。


「そっ、そんな、プレスティトは血も涙もないのか」

「自業自得です」


 エルティアが必死に助けを求めるが、プレスティトさんは相手にしない。

 次に、エルティアが俺の方を見るが、俺は首を横に振る。

 俺がどうこう出来る問題じゃない。


「レントさん、エムピーさん、つまらないものにお付き合いいただき、ありがとうございました」


 何事もないかのように、プレスティトさんが頭を下げる。

 今までも何度となくあったのだろうと思わせる、ずいぶんと慣れた様子だった。


「じゃあ、後はお任せします」

「またのご利用を~」


 ご機嫌なエムピーを連れて、俺は執務室から退出する。

 後ろから「助けてくれ~」と悲痛な声が聞こえたような気もするが、俺の聞き間違いだろう。


「魔力回復ポーションか……」


 返済が滞った場合の最後の手段だ。


「中毒性がなければ良かったんですけど~」


 エムピーの腹黒い面が顔を除かせる。

 もし、彼女の言う通りだったら、皆、お金の許す限りポーションに頼るだろう。

 それは利息が増えることであり、彼女として大歓迎だ。


 しかし、実際、魔力回復ポーションには中毒性がある。

 リボ地獄に落ちるか、ポーション過剰摂取で廃人になるか。


 最終的には、究極の二択だ。


 そうなる者が一人も出ないのが理想だが――人の欲深さには限りがない。


「どうしましたか~?」

「いや、なんでもない」


 俺は首を振って否定する。

 きっと、エムピーは俺の考えなんかお見通しだろうが。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『休日のお買い物(1)』


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