第221話 お説教(1)


「…………」


 はあ、とプレスティトさんが大きくため息をつく。

 場所はギルマスの執務室。

 彼女は両腕を腰に当て、仁王立ちだ。


 その前には、エルティアが正座させられ。

 そして、その周りをエムピーがご機嫌で飛び回る。


 リンカとラーシェスはランチに行っていて、俺一人が立ち会っているのだが、気まずくて帰りたい……。


 この重苦しい空気の原因は、エルティアの【緊急貸与】のせいだ。

 エルティアが1万MPも借りたことを俺が伝え、今に至る。


「で?」


 底冷えのする声でプレスティトさんが迫る。


「いっ、いや、ちがっ――」


 ――パァン。


「痛っ」


 言い訳をしようとしたエルティアだが、プレスティトさんのハリセンで頭を叩かれ、メガネがずり落ちる。


「はあ、しょうがないです」


 プレスティトさんが執務机の上に5本の魔力回復ポーションを並べる。

 ちなみに、机には書類の山が築かれ、スペースはほとんどない。


「これが今日の分です」


 魔力回復ポーション5本。

 クソマズい上に、身体への負担も大きい。

 そのつらさは身をもって知っている。


 魔力回復ポーションの中毒性については、かなり研究されている。

 どこかの誰かのように、中毒になった者が貴重な被検体となってくれるからだ。


 まあ、自業自得だ――とエルティアに視線を向けると。


「いいのか!」


 目を輝かせていた。


「これだけですからね」


 プレスティトさんが言い終わるや否や、エルティアはポーションに飛びつく。

 そして、躊躇いもなく栓を開け、グビグビと一気飲みだ。


「ぷはー。仕事の後の一本はたまらんなあ」


 ダンジョン帰りのエールを飲み干した冒険者のようなセリフと顔つきだ。摂取


「えっ?」


 思わず絶句する。

 もしかして、入れ物だけで中は別物なのか?


「これが大好物なんです」

「魔力回復ポーションが?」

「はい。なので、いつもは飲ませないようにしてるんです」

「魔力回復ポーションを?」

「放っておくと、際限なく飲んでしまうので」


 違法薬物の中には、摂取によって快楽を得られ、それが止められず、身体をむしばんでいくものがある。

 摂り過ぎは有害という点では、魔力回復ポーションも同じだが、好んで飲む者はいない。

 だが、その例外が、目の前で2本目を空けている。


「くぅ~。効いてきた~」


 目を細め恍惚としている。

 俺は思わず尋ねる。


「美味しいの?」

「ああ。極上の味だ。それに魔力が染み込んでいく快感が、なんともたまらん」


 その顔は嘘をついてるようには見えない。


「本気で?」

「残念ながら」


 プレスティトさんは身内の恥とばかり、目を伏せる。


「なので、これはご褒美になるんです。残念ながら」

「良い飲みっぷりです~。ガンガンいくです~」


 魔力大好きっ子なエムピーが煽る。


「それ、一気、一気」


 それを受けて、エルティアが呷る。


 そして、5本目を空にして――。


「おかわり!」


 ――パァン。


「痛っ」


 無言のハリセンがエルティアの頭を打つ。


「調子に乗らない」

「せっかく、久しぶりのおやつなのに……」


 ――パァン。


「プレスティトのけちんぼ」


 ――パァン。


「こんな感じなので、お金は私が管理してます」


 プレスティトさんがこちらを振り向いて言う。

 お小遣い制度だ。親子が逆転してるけど。


「ともあれ、魔力回復ポーションで1日に2,500MPは返済できます。後は自然回復での返済ですが――」


 プレスティトさんは紙とペンを取り出し、書きつけていく


「魔力を一切使わなければポーション分と合わせて、1日当たりだいたい1万ですね。レントさんたちが試練を休む日にはこれだけ返済出来ます」


 エルティアの最大魔力量が3,197MP。

 これの2.4倍が7,673だ。

 なのでポーション回復分を合わせると1万をちょっと超える。


「試練に挑む日は魔力を残す必要があるので6,000にしましょう」


 これなら、4,000MP使えるので、普段と同じくらい魔法が使える。

 問題ない数値だ。


「本当にピンチの場合は、レントさんが指示して下さい」


 俺が頷くと、プレスティトさんはエルティアを見下ろして言う。


「レントさんの許可なしに使ったら、どうなるか分かってますね?」


 ハリセンを振ってみせる。


「わっ、わかった。だから、それは止めてくれ」


 ――パァン。


「ひっ、酷い」


 涙目のエルティアを無視して、プレスティトさんはエムピーに尋ねる。


「こんな感じで2週間の返済プランでどうでしょうか?」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『お説教(2)』


楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る