第220話 ボルテンダール墳墓攻略一度目(10)


 エルティアはステータスを開示する。

 それを見て、俺は絶句するしかなかった。

 彼女のステータスは以下の通りだ。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 MP:0/3,197


【貸与魔蔵庫】


 信用ランク:シルバー

 魔力ストック:0

 魔力残高:-10,000

 返済期限:7日後11:58


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「1万……」


 魔力は空っぽ。

 【緊急貸与】で1万MPも借りている。


 緊急貸与の利息は900%。

 返済期間は1週間。

 元金を合わせて1000%、すなわち、借りた額の10倍を1週間以内に返済しなければならない。

 なので、エルティアは10万MPを返さなければならない。


魔力の自然回復量は1時間に最大魔力の1割。

 自然回復を全額返済に当てても1日で最大魔力の2.4倍だ。

 なので、1週間で返せるのはこれの7倍、最大魔力の16.8倍だ。

 これで利息は借りた分の9倍なので16.8/9、すなわち、最大魔力の1.86倍を超える【緊急貸与】をすると、自力で1週間以内に返済できなくなる。

 だからこその【緊急貸与】だ。本当に緊急な場合以外に使っていると、あっという間に返済不能に陥ってしまう。


 エルティアの最大魔力量は3,197MPだ。これに16.8をかけると53,709MPだ。

 すなわち、46,291MPが不足する。

 これを魔力回復ポーションに換算してみよう。ポーション1本で500MP回復する。

 なので、彼女の不足分をポーション換算すると93本分。


 だが、魔力回復ポーションでギリギリ大丈夫だと言われるのは1日5本まで、それを越えて乱用すると、どこかの誰かみたいになってしまう。

 毎日限界の5本飲んだとしても、一週間で35本。58本分、29,390不足する。


 どうあがいても、1週間以内の返済は不可能だ……。

 一週間後、【強制徴収】が発動する。

 まあ、彼女はシルバーランクで悪質とは見做されていない。

 なので、すぐにリボ払いということはなく、分割返済になるはずだ。(細かいところはエムピーが決めてくれる。)


 しばらく魔力がゼロになってしまうけど、そこまで無理のない量だ。

 だから、安心……と思えないのは、これがエルティアだからだ。


 【緊急貸与】には罠がある。

 返済中であっても、【緊急貸与】は利用可能なのだ。


 だから、返済中に自重しないと分割払からリボ払いコース落ちだ。

 普通の人なら理解できる。だが、エルティアだと……。

 まあ、ここらへんのことはプレスティトさんにお任せしよう。


「帰ろっか……」


 思わず、呆れて声が出てしまう。


「なんだとっ! まだ、冒険を始めたばかりじゃないかっ!」

「エルティア、自分の状況分かってる?」

「ああ、もちろんだ。レントの【緊急貸与】があれば、魔法が使い放題だ! これからもガンガン精霊魔法を使って私の有能さを示してやるんだ」

「…………」


 呆れ果てた。

 それは俺だけではなく、二人も小声でささやいている。


「エルティアさん、全然分かってないですね」

「さすがに、ボクもここまでだとは思ってなかったよ」

「まともに数字も数えられない時点でイヤな予感はしていたんですが……」


 これ以上ほうっておいたら、現状を理解していないエルティアの負債が増えていくだけだ。


「エルティア、このままだとリボ地獄だ」

「なっ、なんだと! それは困るっ!」

「分かってる?」

「ああ、この前、ちょっと聞いたぞ。リボ地獄って怖いらしいな。本当の地獄より怖いんだってな」


 きっと、プレスティトさんに釘をさされたんだろう。


「なあ、レント。私は、大丈夫なのか?」


 ようやく、自分が苦境に立たされていることに気付いたようだ。

 今までの自信満々な顔は、一気に不安で青く染まっていく。

 地獄の話を聞かされた幼子のように。


「詳しい話は帰ってからだ。取りあえず、エルティアは魔法を使わないこと」


 俺から説明するのはしんどすぎる。

 エムピーとプレスティトさんに丸投げしよう。


「なっ! 私は精霊なしじゃ生きて行けんぞ。無茶を言うな」

「魔法を使っちゃダメだ。絶対に」

「わっ、分かった。レントがそこまで言うのなら、ガマンしよう……」


 そういうわけで、俺たちのボルテンダール試練への一度目のトライは、大した成果もなく、昼前に終わってしまった。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『お説教(1)』


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