第219話 ボルテンダール墳墓攻略一度目(9)


 それだけ言うと、俺たちが止める間もなく、エルティアは罠を踏んだ――。


「意外だったな。まさか、そこまで考えていたとは」


 てっきり、好奇心だけでついて来たとばかり思っていた。

 どうやら俺は見誤っていたようだ。

 先入観にとらわれないこと。

 それが冒険者にとって、大事なことのひとつなのに。


「エルティアがみんなに好かれている理由が分かったよ」

「今までも、何度か同じようなことがあったのかもな」


 ラーシェスが納得した顔で言うのに、俺も同意する。


「大丈夫でしょうか?」

「あれだけ啖呵たんかを切ったんだ。すぐに戻ってくるよ」

「だと良いんですが…………」


 リンカは心配顔だ。


「エルティアは殺しても死なないよ」

「そうですね」


 リンカがふっと微笑む。

 ラーシェスも「そうだよね」と頷く。


「じゃあ、のんびり待ってようか」


 ――ドゴォォン。


 デカい音が響く。そして、衝撃も。

 俺もリンカもすぐに臨戦態勢を取る。

 一歩遅れてラーシェスも。


 違和感があれば、すぐに戦える態勢を整える。

 これも冒険者にとって、大切なことのひとつだ。


「遠いみたいだけど」

「怪我してないかな?」

「ああ、きっとピンピンしたまま帰ってくるさ」

「アンガーちゃんどう?」

「ウッス。悪意は感じられないッス」


 ドヤ顔したエルティアの姿が思い浮かぶ。

 二人も同じように思ったのだろう、笑顔を見せる。


 今すぐにでも危険に晒されるわけでないと分かり、軽口を叩く余裕が生まれた。

 油断はしていないが、緊張しすぎも良くない。


 ――ドゴォォン。

 ――ドゴォォン。

 ――ドゴォォン。


 立て続けに鳴る音はだんだんと近づいて来る。


 右だ。


 俺たちの右方向から音が迫ってくる。

 そして、衝撃はどんどんと強くなる。


 ――ドゴォォン。


 ついに、最後の壁が破壊された。そこから出てたのは――。


「戻って来たぞ!」


 エルティアだった。


「もしかして?」

「ああ、風精霊のおかげで、レントたちの方向は分かったからな。後は土精霊に頼んで、壁をぶっ壊してもらった。最短ルートで来たから、あっという間だったぞ」


 エルティアはまったくブレることがなかった。

 力技でのダンジョン突破。

 その口振りから、これが初めてではないのだろう。


「壁、壊せるの?」

「どうやら、壊せる壁と壊せない壁があるみたいだな。今回は都合良く全部壊せたぞ。凄いだろ!」


 やはり、ドヤ顔だった。


「そうそう。時間がたつと穴はふさがってしまうから注意が必要だ」


 話している間に、エルティアが開けた壁の穴が小さくなり、やがて、穴はふさがってしまった。

 壁が壊せるならショートカットして、試練が簡単になるかと思ったが、そう甘くはないかもしれない。


「凄いです」

「ビックリだよ」


 二人が感心してみせるが――。


「いやいや、凄いのはレントの方だぞ」

「レントさん、ですか?」


 エルティアは俺を指差す。


「レントの【緊急貸与】は便利だな。魔法が使い放題だ」

「えっ……」


 嫌な予感がして、背筋が冷たくなる。

 リンカは口に手を当て、「あっ」と漏らす。

 ラーシェスはポカンと口を開けている。


「壁が結構硬かったので、大変だったぞ」

「ちなみに、どれくらい使ったんですか?」

「うーん、良く分からん。数字はわけが分からんからな。レントが見てくれ」


 そう言って、エルティアはステータスを開示する。

 それを見て俺は絶句するしかなかった。


「1万……」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダール墳墓攻略一度目(10)』


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