第218話 ボルテンダール墳墓攻略一度目(8)


「行き止まりだ」


 先頭のエルティアが脚を止める。

 彼女の言う通り、その先は壁に阻まれている。


「壁のそばに罠があるッス」

「む?」

「全然、分からないです」

「ボクも分からない」

「ああ」


 今までで一番、巧妙な罠だ。

 これまでの罠は注意深く見れば、気がつけるものだった。

 だが、この罠は、まったく他の地面と違いが分からない。


「ちょっと待って」


 俺はその場にしゃがんで、顔を床スレスレまで近づける。


「ああ、確かに」


 低い場所から見ると、壁ギリギリにほんの僅か――1ミリもない、だが、段差がある。

 

 アンガーに言われなければ、絶対に気付かないだろう。


「レントさん、やっぱり……」

「ああ、そうみたいだね」

「どういうこと?」

「SSSギフトだよ」


 この試練はSSSギフトの持ち主を試すもの。

 すなわち、SSSギフト主がメンバーにいることを想定して造られている。

 罠を見分けられるアンガーがいるのが前提なのだろう。

 アンガーがおらず、エルティアがいなかったら、ここに来るまでも苦戦を強いられていた。


 そして、それは他のSSSも同じく。

 たった三人の俺たちでは、かなりのハンディキャップがある。

 相当、苦労しそうだ。

 その穴を、エルティアがどれだけ埋めてくれるか……。


「あっ、そういうことか!」


 説明すると、ラーシェスも納得してくれた。

 それにエルティアも。


「難しいことは分からんが、私がいるのだ。なにを恐れることがあるか!」

「そうだな」


 さっきまでと違い、彼女がずいぶんと頼もしく見えた。


「ともあれ――」


 口を開いた俺に、三人の視線が集まる。


「他に道はなかった。なにかアイディアがある人?」


 ここまでずっと一本道で分岐はなかった。

 注意しながら進んできたが、途中になにかあったら気がついているはずだ。

 やはり、この壁か、この罠か。

 試してみる必要がありそうだ。


「アンガーちゃん?」

「壁からはなんにも感じられないッス」


 リンカが尋ねてみるが、アンガーからは否定的な回答が返ってくる。


「イータ?」

「壁には弱点がないニャ。というか、すべての攻撃が効かないニャ」

「姐御の【弐之太刀】が効かないって? 舐めるんじゃないッス」

「しょうがないニャ。今は無理ニャ」


 否定的なのはイータも同じだ。


 ボルテンダールはSSSギフト持ち。

 しかも、彼が死ぬ前にここを造ったということは、間違いなく今の俺たちより強い状態だったはず。


「仕方ない。俺が踏むよ」

「レントさん」

「この先は、なにが待ち構えるか分からない。物理攻撃が来ても、魔法攻撃が来ても対応でできるのはバランス型の俺だけ。それに――」


 二人に向かって、俺は告げる。


「俺がリーダーだからね」


 俺は覚悟を決めたところで、横から声が――。


「ここは私に任せるんだな!」

「エルティア」

「バランス型といえば、私より適任な者はいない」

「そうだけど、これは俺たちの試練だ」

「だからこそだ」


 いつの間にか、エルティアは真剣な顔つきになっている。


「この程度の罠は序の口。この先、レントたちでなければ、越えられない試練があるのだろう」


 確かに、その通りだ。

 まだまだ、試練は始まったばかり。


「レントたちは私よりも大きなものを抱えているのだろう? 私一人がどうなったところで、試練は続行できる。ここは私が行こうではないか」


 悔しいが、現時点で一番強いのはエルティアだ。


「なに、その程度の覚悟がなければ、ついて来たりしない――そもそも、ギルマスを引き受けたときに決めたのだ。死ぬのは誰かを守るためだとな」


 それだけ言うと、俺たちが止める間もなく、エルティアは罠を踏んだ――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダール墳墓攻略一度目(9)』


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