第214話 ボルテンダール墳墓攻略一度目(4)


 墳墓の中に入って最初に感じたのは砂っぽさだ。

 誰も入っていないからだろう。

 淀んだ空気に不快感を覚える。


 墓の中はほのかに明るい。

 外と同じ巨石で組まれた通路。

 幅五メートルで高さは三メートルほどで、戦闘には困らない広さだ。


「うむ。どうも、ここは空気が汚いな」


 遅れて入って来たエルティアが一歩前に出る。

 どうしても、先頭に立ちたいようだ。


「よーし、今度こそ、私の実力を見せてやろう」


 エルティアは、砂漠で出鼻をくじかれたこともあり、余計にやる気全開だ。

 実力も何も、一人で空回りしていただけだと思うが……。


「頼むぞ、風精霊」


 彼女が言うと、一陣の風が起こる。

 俺たちの周りをクルッと回った風が、前方に飛んでいく。

 それとともに、空気の淀みがなくなった。


「凄いな」

「空気が綺麗になりました」

「どうだ、凄いだろ!」


 エルティアは胸を張ってみせる。

 バカだけど、精霊術は本物だ。

 最低まで落ちていた彼女への評価が、少し修正された。


「これがダンジョンなんだね!」


 初めてのダンジョンに、ラーシェスは興奮気味だ。

 彼女は小さい頃から冒険者に憧れていた。

 ゴーレムやガーゴイル相手に戦いは経験したが、本格的なダンジョンは初トライだ。


 彼女のキラキラとした瞳を見て、俺も昔の自分を思い出す。

 冒険者になったばかり、初めてのダンジョンにワクワクしていた。

 あの頃は良かった。だが、時間がたつにつれて――。


 けれども、今は最高だ。

 本当の仲間に恵まれ、エムピーに癒やされ、アンガーとイータのやり取りにほっこりする。

 SSSギフトの制約はあれど、それでも、最高だ。


「メルバの大迷宮とは、また、感じが違いますね」


 リンカは冒険者になって以来、ずっとメルバの街を拠点にしており、ダンジョンは大迷宮しか知らない。

 彼女からも、やる気が感じられる。

 テンションは高く、気負いがない。

 ベストコンディションだ。


「俺もいくつかダンジョンを知ってるけど、ここは特別に思える。エルティアはどう思う?」

「ん?」

「他のダンジョンと比べてどう?」

「ああ……」


 そして、もう一人、楽しそうなエルティア。

 彼女はギルドマスターとしてはともかく、冒険者としては一流だ。

 今までいろんなダンジョンに潜ってきただろう。


「ダンジョンはどこも一緒だろ?」


 なにを言うのだ。当たり前だろ。そういう顔つきだ。


「なんか、閉じ込められて、モンスターを倒す。それがダンジョンだ。どこも一緒だ」

「…………」


 やっぱり、尋ねた俺が悪かった。


「まあ、進んでみようか」

「はい!」

「そうだね!」

「なら、先頭は私に任せろ! 戦闘も私に任せろ!」


 上手いこと言ったつもりなのだろうか。ドヤ顔をしている。


「それにしても、これだけ大きいと、長期戦になりそうだな」


 さすがに大迷宮とは比べられないが、ここもかなり大きなダンジョンだ。

 そうだとすれば、エルティアとは長いつき合いになりそうだ。

 プレスティトさんも「いなくても困らないので、好きに使って下さい」と言っていた。

 また、「帰ってきたら、溜まった書類に判子を押させるだけなので」とも。

 本人も、ギルドの執務室にこもりきりでなく、外で暴れられると喜んでいた。


 そこに、アンガーが現れた。


「おら、イータ、お前も起きるッス」

「んにゃあ、寝かせるニャ」


 そして、イータを叩き起こす。

 ともに、ダンジョン攻略に役立つサポート妖精だ。

 二匹にも活躍してもらおう。

 ちなみに、戦闘にはまったく役に立てないエムピーは、今日も冒険者ギルドでプレスティトさんと楽しそうにしている。


「どうしたの?」

「俺っちの出番ッス」


 アンガーの能力は悪意に気づけることだ。

 そのアンガーが現れたということは――。


「あっちから、モンスターがやって来るッス」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダール墳墓攻略一度目(5)』


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