第212話 ボルテンダール墳墓攻略一度目(2)


  ――眩い光に、俺は思わず目をつぶった。


 そして、光が収まり、目を開けると――視界に収まる全てのゴーレムが消失していた。


「えっ……」


 信じられぬ光景に俺たち三人は目を疑う。

 エルティアは俺たち以上で、呆然として口をポカンと開けている。

 なんか、色々こぼれ落ちそうだ。


 だが、これは助かった。

 ゴーレムを倒しながらだと、墳墓まで数時間かかるし、体力の消耗も激しい。

 今日は様子見、墳墓までたどりつき、少し中を見るくらいの気持ちだったが、これなら予定以上に墳墓攻略に時間をかけられるな。


 そして、砂の上に輝く一本の線。

 これをたどれということか。


 なにも道しるべのない砂漠では、まっすぐに進んでいるつもりでも、道がそれるおそれがある。

 よほど注意しないと、迷子になってしまい、目的地の墳墓に到達できない。

 フラニスさんから貰った指輪のおかげで、一気に難易度が下がった。


「楽させてもらえそうだね」

「みたいだな」

「うわっ、凄い」


 だが、難易度が下がったことには、別の意味もある。

 ゴーレム地帯を抜けるのも試練のうちだと思っていたが、それは試練に入らない。

 それだけ、ボルテンダールの試練の難易度が高いことを意味する。

 リンカとラーシェスもそれを理解したようで、真剣な顔つきだ。


 それに対し、エルティアはこちらを振り向いて――。


「ゴーレムは……私の風精霊は……」


 うわ。

 ピクニックが中止になった子どもみたいに落ち込んでる。

 いや、彼女にとってはピクニック気分なんだろうな。


 それにしても、大人がする顔じゃない。

 彼女は知性溢れるギルドマスター――という設定が完全に崩壊して、眼鏡がずり落ちている。

 この調子では、ゴーレムが消え、一本道ができた意味はまったく理解してないに違いない。


「まあ、行きましょう」

「うん……」


 ショボンとしてる彼女とは違い、俺としては楽できて嬉しい。

 俺が走り出すと、リンカもラーシェスも続いてくる。


「まっ、待ってくれ」


 呆けていたエルティアは、少し遅れたが――。


「風精霊。私の背中を押すのだ!」


 彼女の言葉に合わせ、風が吹く。

 それと同時に、彼女は加速する。


 俺たちに追いつき。

 俺たちを追い越し。


「はっはっは。これが私の速さだ! ついてこれるかな?」


 さっきの落ち込み振りが嘘のように、満面の笑顔で駆け抜けていった。


「こっちも速度上げよう」

「はい!」「うん!」


 俺たちも全力を出していたわけじゃない。

 すぐに彼女に追いついた。


「なっ、なかなかやるな。だが、私の本気はこんなもんじゃないぞ」


 彼女はさらに加速する。

 完全に、勝負みたいになっているが――。


「はあはあはぁ」


 ゴーレムの妨害がなかったおかげで、一時間もかからず墳墓の前に到着した。

 そして、エルティアは地面に横たわり、息も絶え絶えだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。すぐに復活する」


 …………。

 やっぱり、彼女を連れてきたのは、間違えだったかな?


「へぷっ」


 エルティアは喋ったせいで口の中に砂が入って、むせている。

 プレスティトさんはこう言っていた「バカですが、戦闘能力だけはずば抜けてます。バカですが」

 念押しされただけあって、やっぱりバカだった。

 帰ろっかな?


 ともあれ――。


「これがボルテンダール墳墓か……」


 フラニス廟と同じような、小さな石造りの建物だ。

 俺だけでなく、リンカもラーシェスも拍子抜けといった調子だ。

 ちなみに、エルティアはまだ復活していない。


「思っていたより小さいな」


 これだけ広大な砂漠に囲まれた墳墓。

 しかも、SSSギフトの持ち主の墓だ。

 壮大なものを想像していたが……。


 そう思っていると、また、ラーシェスの指輪が光る――。


 ――ゴゴゴゴゴッ。


 大きな音と共に砂漠が盛り上がる。

 いや、正確には、砂漠の中に埋まっていた建造物がせり上がってるんだ。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダール墳墓攻略一度目(3)』


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