第211話 ボルテンダール墳墓攻略一度目(1)


 伯爵に報告を済ませ、俺たち四人はボルテンダール墳墓に挑む。

 ラーシェスの先祖であり、SSSギフト【御魂喰いみたまぐい】の保持者であるボルテンダールが眠る墓だ。

 彼の妻であったフラニス・ウィラード――彼女が課した試練をクリアした俺たちが次に挑むのはボルテンダールの試練。


 試練に挑むにはまず、墳墓を取り囲む広大な砂漠を踏破しなければならない。

 砂漠を守るのは巨大なサンドゴーレム。

 魔力で生み出されると言われるゴーレムは、倒しても倒しても、一定時間が経過すると復活する。


 砂漠踏破が試練に挑むための前提条件。

 ここを突破しないことには始まらない。


「よしいくぞ。えいえいおー!」


 砂漠を前にして、一番先頭でやる気満々でグーを高く突き上げているのは四人目のメンバー――。


 特徴的な長い耳。

 スレンダーな体型。

 薄くうっすらと赤い唇。

 鼻はスッと高く天を向く。


 冒険者ギルドのギルマスで、プレスティトさんが愚母よばわりするエルティアだ。


 一陣の風が吹き、彼女の長い髪が舞う。

 その手で髪を抑えようとして、彼女の眼鏡がずり落ちる。


 薄くスタイリッシュな眼鏡は彼女にとっては一番大切な装備だ。

 とはいえ、武器としても、防具としても、まったく効果がない。

 しかも、嵌められているのはレンズではなく、ただの透明な板。


 その効果は装着者の知性を周囲に感じさせる――と思っているのは本人だけだ。

 バレバレなんだが、周囲は誰も突っ込まない。

 そういう点も含め、彼女のポンコツぶりはこの街の多くの冒険者に知れ渡っている。


 それでも彼女がギルマスを務めることに異論を出す者はいない。

 彼女は愛されるポンコツなのだ。

 まあ、彼女をフォローする娘プレスティトさんがギルド業務を一人で全部こなしているからこそ、文句も出ないのだが。


 プレスティトさんがオススメしてくれた相手が、まさかのエルティアだった。

 彼女が言うには「ポンコツですが、誰よりも精霊に愛されています。悔しいですが」とのこと。

 そう言う彼女は心の底から嫌そうな顔をしていた。

 たしかに、今のこの街での最強であることは間違いない。


 ――だけど、本当に彼女で大丈夫か?


 今の「えいえいおー」だけで、不安になってくる。

 しかし、他にあてもない。

 ダメだったら代えればいいか、と思っていたのだが……。

 最初から、不安になってきた。


「「「……………………」」」


 荒涼とした砂漠に砂が舞う音だけが響く。


「どうした、レント?」

「いえ……」

「ほら、さっさと、行こうじゃないか!」


 なんか、彼女がリーダーみたいな雰囲気だ。

 横を見ると、リンカもラーシェスも俺同様、なんとも言えない顔をしている。


「まあ、行こっか」

「そうですね」

「大丈夫かな?」


 リンカとラーシェスは『流星群』と一緒に、すでに最深部のエリア5まで到達済みだ。


「レントさんも一緒なら平気ですよ」

「ボクもそう思うよ」

「そうだな」


 リンカの額には『流星群』から餞別でもらった鉢金が巻かれており、ミスリルプレートが砂漠のギラつく日差しを反射している。

 ジンさんにオススメされた手甲、脚甲はまだ入手していない。

 明日にでも、買いに行こうという話になっている。


 ラーシェスが手に持つ血統斧レイン・イン・ブラッドは不吉なほどに赤黒い。

 そして、その表面は鈍い輝きを放っている。

 これも餞別の手入れ布でピカピカに磨いたからだ。


 そして、俺は――嵌められている腕輪を見る。

 表示されている数字は『70』。

 平常時の脈拍数だ。


 気負いはあるが、緊張はしていない。

 ベストコンディションだ。

 この値を戦闘時でも乱さない様にする。

 それが俺の課題だ。


 二人とも、一週間でずいぶんと頼もしくなった。

 それは俺も同じだ。

 俺は気持ちを切り替える。


 目の前に広がる砂漠には、俺たちよりデカいサンドゴーレムが点々と立っている。

 サンドゴーレムは今は動いていないが、近づいたら攻撃を仕掛けてくるのだ。


 見たところ、砂漠には他の冒険者は一人もいない。

 なぜかというと、サンドゴーレムは倒すとパラパラと崩れ、砂に戻ってしまう。

 他のモンスターと違い、倒しても得る物がないのだ。

 

サンドゴーレムをいくら狩っても1ゴルにもならない。

 この街の冒険者のほとんどはニーラクピルコの森を狩り場としている。

 砂漠に挑むのは、俺たちや『流星群』といった強さを求める変わり者だけだ。


 そんな変わり者の中でもトップクラスと言えるのが目の前にいる。

 俺はちらりと、はしゃいでいるエルティアを見る。


「はっはっは。ゴーレムなぞ、私の風精霊で斬り裂いてやる」


 彼女の周りで、風が渦巻く。

 姿は見えないが、風精霊のしわざだ。


 彼女のギフトは精霊術士。

 精霊の力を借りて戦う。

 そして、彼女は精霊使いの天才。

 その実力だけでギルドマスターになったのだ。

 脳味噌はアレだけど……。


 と、息巻いているエルティアだったが……。


「あっ」


 そのとき、ラーシェスが嵌めている指輪が光る。

 フラニスさんから試練を終えてもらった指輪だ。


 ――眩い光に、俺は思わず目をつぶった。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ボルテンダール墳墓攻略一度目(2)』


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