第209話 一週間の経過報告(4)


「ちなみに、この数値は今後の利息返済量の推定値です。エムピーさんの協力を得て、中央情報機構ユグドラシルから得た情報なので、ほぼ正確な予測値です」


 エムピーを見ると、自信満々の腕組みだ。


「はいです~。誤差は0.01%以下です~」


 さすがは中央情報機構ユグドラシルということか。

 というか、0.01%以下って誤差とも言えない量なんじゃないか?


「ただし、不確定要素がひとつだけあります~。その場合、誤差は10%以上になるかもです~」

「不確定要素?」


 そんなことが起こりうるんだろうか……。

 それは一体……


「あっ!」


 背筋を冷たい汗が伝い落ちる。


「俺か……」

「ピンポーン。ご名答です~。さすがはマスターです~‼」


 内なる獣でSSSギフトの持ち主を喰らわんとする創世神。

 内なる獣に喰らわれんと、抵抗するSSSギフトの持ち主。


「創世神に立ち向かえるのは俺たちだけってことか」

「ご明察~」


 そうなると――。

 昨晩のエムピーとジンさんのやり取りを思い出す。

 ジンさんは【魔蔵庫貸与】のガイドブックを作り、販売することになった。

 ジンさんは金儲けのためだと、利己的に振る舞っていたが――。


 以前、ジンさんが言っていた。


 ――相手を騙して、不幸にして、儲けるのは商売じゃねえ。

 ――相手を幸せにして、俺の懐も温かい、それが真っ当な商売だ。


 そして、彼は笑って言う。


 ――まあ、賭けの胴元が真っ当かどうかは分からんがな。


 彼がガイドブックを作ったのは、被害者を一人でも少なくするためだ。

 それは彼の優しさだ。

 彼に聞いたら、「金儲けのついでに誰かが助かる」って笑って言うだろうが。


 だが、エムピーの話からすると――。


「この報告書を作ったのはいつですか?」

「二日前です」


 俺の問いかけにプレスティトさんが答える。

 さも、当然といった様子で。

 それもそうだ。


「ジンさんから、ガイドブックのことは聞きました?」

「ええ、昨晩遅くですが」


 それがなにか?

 プレスティトさんの顔がそれを告げている。


 さすがはジンさん。

 動きが速い。

 速いのだが――。


 はあ――俺は大きく息を吐く。

 プレスティトさんがキョトンとした目で俺を見る。

 エムピーは俺の意図を察しても、笑顔のままだ。


 俺はギュッと拳を握りしめ、怒りを封じ込む。


 この報告書はガイドブックの話がある前に作られた。

 その時点では、ジンさんがガイドブックを提案するかどうか、分かっていない。


 それなのに、このグラフはそのことを織り込み済み。

 誤差は0.01%以下だと。


 ジンさんがどう動いても、結果は変わらないのか。

 それともジンさんの行動は創世神に筒抜けなのか。


 自分の意思で動いているつもりでも、世界は変わらない。

 どう行動したって、世界には影響がない。

 すべては創世神の掌の上だ。


 ――これが、創世神の悪意だ。


 人間をバカにするような悪意だ。


「分かった。俺が変える。誤差を10%以上にしてみせる」


 もちろん、下方修正だ。

 エムピーを見て、告げる。

 彼女は穏やかな笑みを浮かべていた。


 エムピーは創世神の代弁者。

 彼女に悪意があるかどうか、俺には分からない。

 と思っていても、視線に怒りが載ってしまうのを避けられなかった。


「分かりました。続きをお願いします」

「では、続けますね。次のページを」


 なんとか作り直した笑顔でプレスティトさんに先をうながす。

 彼女は何も悪くない。


 ――それから、1時間ほどかけて、成果報告を受けた。


 報告が終わったところで、俺は彼女に尋ねてみる。

 ボルテンダール墳墓に入る四人目のメンバーについてだ。

 ダメ元のつもりで聞いてみる。


「誰か、あてはありますか?」

「それなら、ちょうど良いのが一人います――」


 彼女が挙げた人物。

 確かに適任な気もするが、それ以上に不安な気もする。

 だが、他にあてもない。

 うーん…………。

 取りあえず、試してみるか。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『伯爵への報告』


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