第208話 一週間の経過報告(3)

「エムピーさんから提案されたように、最初はスタンダードプランをお勧めしています」


 スタンダードプランは1日目に上限いっぱいまで借りて、翌日に全額返済するプランだ。

 先ほど同様、最大魔力が1,000MPのケースを考えよう。


 魔力の自然回復量は1時間あたり最大魔力量の1割だ。

 すなわち、1日で2,400MP。二日で4,800MP回復する。

 それに加えて、借りた魔力2,000MPがある。

 なので、2日間で6,800MP得られる。

 そのうち、2,400MPを返済に充てる必要があるので、実質4,400MPが使用可能だ。


 冒険者は24時間戦い続けることは不可能だ。

 一日の半分休んで、その分を返済に充てれば2日間で完済できる。

 これがスタンダードプランだ。


 これが【魔蔵庫貸与】ナシの場合、1日の半分を休むとすると、2日間で使用可能な魔力は2,400MP。

 【魔蔵庫貸与】によって借りた2,000MPだけ余計に使える。

 単純計算だと、今までの倍近くの魔力が使え、稼ぎも倍になる。

 【魔蔵庫貸与】の凄さが分かるだろう。


「ほとんど全員がスタンダードプランを実行しています。この1週間でレントさんへの利息は――」


 プレスティトさんから聞いた数値は予想以上に多かった。

 思わず頬が緩む。

 エムピーもご満悦だ。


 スタンダードプランの場合は2日ごとに利息2割。

 すなわち、毎日、冒険者の最大魔力の合計1割が利息として得られるのだ。

 冒険者にとっても破格のプランで、俺にとっての利益もとてつもない。


 しかも、今はこの街だけでなく、全ギルドに広まっている最中だ。

 それに【魔蔵庫貸与】によって、冒険者の成長も早まり、各人が借りられる魔力量も増加する。

 まさに、雪だるま式で利息収入が増えていくのだ。


「まだ始まったばかりですが、結果は顕著に現れてます。ギルド依頼の達成数も増加してますし、負傷者は減少してます。たった1週間でこの成果です。この先、凄いことになりますよ」


 俺の最大魔力は9,999。

 現時点では、これ以上は増やせない。

 増やすためには、【魔力運用LV4】を入手しなければならない。

 そして、それを購入するには1千万MPが必要だ。


 今は、【魔力貸与】が普及し始めたこともあり、1日当たり7万ちょっと。

 このままでは、5ヶ月近くかかる。

 だが、これから利息返済が増えれば、その期間はずっと短くなる。


「次のページをご覧ください。実際にどうなるかが書かれています」


 ページをめくるとグラフが載っている。

 横軸は日付。縦軸は魔力量だ。

 2つの線が描かれている。

 青い線と赤い線だ。

 赤線は青線の上に位置している。


「青線は通常貸与によるもの、赤線は【緊急貸与】を含めたものです」


 どちらも右肩上がり。時間とともに、増えている。

 そして、それだけではなく、増え方も増えているのだ。

 特に、【緊急貸与】の上がり方がエグい。

 起こりうるとは予想していたが、この増え方は――。


「ぴんぽ~ん」

「レントさんの想像通りです」

「やっぱりか」


 【緊急貸与】の異常な増え方。

 それは、本当にピンチの時に使うのではなく、目先の利益優先で、後のことを考えずに濫用する者が出て来ることを意味する。

 そして、この増え方からすると、少人数では済まされなさそうだ。


「実は、すでにもう影響が出始めています」


 本来なら、暗い話だ。

 プレスティトさんも、俺と同じく、沈痛な面持ちをしている。

 だが、残りの一人は――。


「自業自得です~。【緊急貸与】についてはちゃんと説明したです~。あのゴミクズ債務者とは違って、親切な対応です~。それでも、人間は目の前の欲望に勝てないです~。ソイツらからはむしり取れるだけむしり取るです~。リボ払いドンと来いです~」


 エムピーの目元がスッと下がる。

 表情は硬いのだが、目だけが笑っている。

 地獄に落ちる債務者を前にした笑顔だ。


「まあ、こちらでも、危なそうな冒険者には、注意をうながしますので」

「そこから先は、どうしようもないと」

「そうですね」

「そうです~。しょうがないです~」


 プレスティトさんに出来るのはそれくらいだ。

 そもそも、冒険者は自己責任だ。

 注意喚起は出来るが、その先は本人次第。


 ただ、冒険者は商人じゃない。

 最低限の文字しか読み書きできない者もいるし。

 依頼に困らない程度の計算しか出来ないものも多い。

 いくら数字で説明しても、その怖さを理解できるとは限らない。


 ――俺だけは大丈夫。

 ――良く分からないけど、きっと大丈夫。

 ――ちゃんと怖さは分かっているから、大丈夫。


 そうやって自滅した三人組を知っている。

 奴らにはまったく同情しない。

 しかし、それ以外の冒険者に積極的に地獄に落ちて欲しいとも思っていない。


 ただ、俺に悪意がなくとも。

 【無限の魔蔵庫】には、悪意がある。

 それは、創世神が定めた悪意だ。

 人間を試す、悪意だ。


「ちなみに、この数値は――」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『一週間の経過報告(4)』


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