第207話 一週間の経過報告(2)


 俺とエムピーは最初の目的地である冒険者ギルドに到着した。

 ギルド建物に足を一歩、踏み入れると床板がきしんだ。

 だが、その音は喧噪にかき消される。


 いつもと同じだが、いつもと違う。


「みなさんも、イキイキです~」

「やっぱりアレのせいだよね」


 青さが抜けない少年。

 溌剌はつらつとした少女。

 いかつい顔をした男。


 浮かれているのは俺とエムピーだけではなかった。

 春から夏に変わったとでも言えばいいのか。

 たった一週間で、ギルドの、冒険者の空気が変わった。


 俺は目立たないようにフードを目深にかぶり直す。

 『流星群』と『双頭の銀狼』が去った今、俺はこの街で一番の有名人だ。

 歩くだけでお礼を言われるほど。

 今日は早く用事を済ませてから、ボルテンダール墳墓にトライしたいので、彼らに捕まりたくはない。

 目立たないように気をつけて、目当ての人物のもとへ向かう。


「プレスティトさん、おはようございます」

「レントさん、おはようございます」


 今日の最初の相手は、ギルドマスター・エルティアの娘にして、このギルドの実質的支配者であるプレスティトさんだ。


「エムピーさんもおはようございます」

「今日も、魔力の話ができて嬉しいです~」


 頭を下げるプレスティトさんに合わせて、フワフワと浮かぶエムピーもペコリと。

 二人は俺抜きで何度か打ち合わせしてたので、ずいぶんと打ち解けた様子だ。


 ――欲がないのが玉に瑕ですが、事務処理能力は優秀です~。


 とエムピーは言っていた。

 きっと欲はエムピー担当なのだろう。


 俺は少し緊張していたが、二人を見て、肩の力が抜けた。

 俺たちはプレスティトさんに従い、個室へ向かう。

 部屋に入るなり、彼女が深々と頭を下げる。


「うちのバカがご迷惑をおかけしたようで、申し訳ございません」


 エルティアのことだ。

 普通、「うちのバカ」は親が子どものことを言う場合だ。

 その逆になっているが、うん。まあ。その通りだ。

 とはいえバカ――もとい、エルティアがちょっかいを出してきたのは修行初日だけだし、シャノンさんの巧みなあしらいのおかげで、それほど邪魔にはならなかった。

 というか、チョコをあげとけば良いだけだと、俺も学んだ。


「頭上げてください。ぜんぜん、大したことなかったですよ」

「そうだと良いのですが。なにかあったら、すぐにお伝えくださいね。しばいておきますから」


 温厚なプレスティトさんのこめかみがピクピクしている。

 色々と思い出しているのだろう……。


 このやり取りが終わると、プレスティトさんの報告が始まった。


「こちら、資料になります」


 『極秘』と赤字で書かれた紙の束――この一週間の【魔蔵庫貸与】に関する情報がまとめられた書類だ。

 手に取るとずっしりと重い。かなりの分量なようだ。

 短期間でこれだけの物を仕上げるとは、彼女の有能さが理解できる。


「エムピーも見る?」

「マスターの気遣いは嬉しいですが、私は既に把握してます~」


 確認程度に尋ねてみたが、やっぱり、エムピーが知らないわけないか。

 その嬉しそうな顔を見るだけで、報告を受ける前から良い結果だと分かる。


「まずは概要をご覧ください」


 表紙をめくると、次ページには全体的なデータが纏められていた。


「スタート時はシルバーランクなので、全員がシルバーランクです」


 【魔蔵庫貸与】にはランクがあり、返済実績を積み上げることによってランクが上がる。

 そうすると、貸し出し可能量が増えたり、昨日、ナミリアさんにエムピーが教えたように様々な特典がつく。

 逆に返済が滞ったりすると、ランクが下がることになる。


 エムピーいわく、ランクを上げるには相当な返済実績が必要だが、下がるのは簡単らしい。

 そして、ランクが下がっても、態度をあらためないと――。


 実例を知っているだけに、誰もそうならないで欲しい。

 だが、人間の欲深さはよく知っている。

 奴らのこともそうだし、俺自身も油断すると内なる獸に呑み込まれてしまう。


 エムピーと目が合う。

 俺の考えを見透かしたのか、いつもの悪い目で笑っている。

 エムピーだけは怒らせてはならないのだが、借りた冒険者たちもそれを理解していると良いのだが……。


 ちなみに、シルバーランクの貸し出し条件は――。


 ・最大魔力量の2倍まで。

 ・利息は2割。

 ・返済期限は3日間。


 たとえば、最大魔力量が1,000MPの場合、2,000MPまで借りられ、3日以内に2,400MP返済すればいい。


「エムピーさんから提案されたように、最初はスタンダードプランをお勧めしています」







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『一週間の経過報告(3)』


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