第205話 流星群と打ち上げ(4)


「じゃあ、次はラーシェス」

「うん!」

「ちょっと武器出してみろ」

「はい」


 ラーシェスは血統斧レイン・イン・ブラッドを取り出し、ロジャーさんに手渡す。


「相変わらず、エグい色してんなあ」


 血統斧レイン・イン・ブラッドは名が示すようにドス黒い赤色だ。

 この武器には特徴がある。


「よっと」


 受け取ったロジャーさんは血統斧レイン・イン・ブラッドをテーブルに置く。

 そして、ナイフを取り出し、躊躇いなく自分の手を切りつける。


「えっ……」


 俺たち三人はいきなりの行動に驚くが、『流星群』の皆はいつも通りの顔だ。

 「また始まったよ」といった感じだ。


 ロジャーさんも涼しい顔して、その血を血統斧レイン・イン・ブラッドに垂らす。


「痛くないんですか?」

「ん? ああ、痛いんじゃない?」


 心配するラーシェスに対して、ロジャーさんは他人事のように涼しい顔だ。

 そんな彼にナミリアさんが「まったく、コイツは」と呟きながら、回復魔法をかける。

 彼女は付与魔術の使い手だが、回復魔法を使える。

 もちろん、本職ほどではないが、ナミリアさんレベルになると、実戦でも使えるほどの効果だ。


「それより、見てろよ」


 みんなの視線が血統斧レイン・イン・ブラッドに集まる。

 ロジャーさんの血がポタポタと血統斧レイン・イン・ブラッドに滴り落ち、そのまま吸い込まれる。


 血を吸い込む――これが血統斧レイン・イン・ブラッドの特性だ。

 吸えば吸うほど、色はより濃くなり、切れ味が増す。


「こうやって、血を吸って成長するんだろ?」

「うっ、うん」

「だけどな……」


 血をあらかた吸い尽くした血統斧レイン・イン・ブラッドの表面をロジャーさんが撫でる。

 すると、血の残りかすのようなものがパラパラと剥がれ落ちる。


「見ての通り、完全に吸い尽くすわけじゃねえ。おい、ジン」

「おお」


 ジンさんがロジャーさんにハンドタオルサイズの真白い布を手渡す。

 ロジャーさんがその布で血統斧レイン・イン・ブラッドを拭うと、こびりついていた残滓が綺麗に拭き取られる。

 そして、血で染まった布はといえば、すぐに真っ白に元通りだ。


「こういう便利な物もあるんだぜ。ちゃんと手入れしてやれよ」


 血統斧レイン・イン・ブラッドと一緒に白い布をラーシェスに手渡す。


「この布はよっぽど汚れない限りは、こうやって元通りになるが、たまには修理液リペアリキッドで綺麗にした方がいい」


 ジンさんが説明してくれる。


「レント、ちゃんと手入れの仕方を教えとけよ」


 戦い方以外にも、冒険者には学ばなければならないことがたくさんある。

 武器の手入れもそのひとつだ。

 ちゃんと手入れしないと武器は劣化し、最悪、ぶっ壊れてしまう。


 ラーシェスは成り立ての冒険者だ。

 俺が色々と教えないとな。


「ありがとうございます!」

「おうよ。貴族のお嬢ちゃんになにを上げればいいか迷ってな。礼ならコメットに言ってやれ」


 コメットさん?

 意外な名前に驚く。


「ありがとうございます!」


 あらためてラーシェスがコメットさんにお礼を述べるが、コメットさんはプイッとあっちを向いてしまう。


「これ、コイツなりの照れ隠しだ。気にすんな」

「うるさい!」

「コイツはなにを考えてるかサッパリわかんねえが、けっこう目端がきくんだよ」


 つかみ所のないコメットさんだけど、ロジャーさんはさすがによく分かってる。


「最後にレントはコレだ」

「腕輪ですか?」


 俺はためらう。

 腕輪のような装身具には、魔法の効果で能力が上がるものがある。

 だが、それはとても高価で、Aランクパーティーの彼らでもおいそれと手に入れられる物ではない。

 さすがに、貰いすぎではと思っていると、ジンさんが答えてくれた。


「気にしなくていいぞ。そんなに高い物じゃないからな。まあ、嵌めてみろよ」


 言われた通りにすると、しばらくして腕輪に数字が現れた。


「これは?」

「脈拍を測る腕輪だ」

「あっ!」

「レントの役目は戦場全体を見渡して指揮をすること。そして、戦いを支配するには、まず、自分自身を支配しなきゃな。意味は分かるだろ?」


 脈拍数は一分間にどれだけ脈を打つかで、それは心拍数と同じだ。

 筋肉を動かす物理職なら、鼓動を速く、心拍を高く上げる必要がある。

 一流の戦士は心臓も自在に操れると言われるくらいだ。


 だが、冷静な判断をするためには、脈拍は一定に――平常時と同じに、保たなければならない。

 頭では分かっていたのだが、客観的に測定できるアイテムがあったのか。


「こんな方法があるんですね」

「まあな。俺が考えて、知り合いに作ってもらったモンだ。値段は大したことねえから、気にしなくていいぞ」


 これが最高峰パーティーの頭脳か。

 強くなることを考え続け、どんな方法でも取り入れる。


「さて、そろそろ、お開きだ」

「いろいろとありがとうございました」

「おうよ」


 ロジャーさんの言葉で締めることになった。


 ナミリアさんは「早くレントちゃんと一緒に大迷宮を攻略したいわ。そのときは……なんでもないわ」と意味ありげに。


 コメットさんは「私にもスキル連発教えろ!」と変わらず興奮気味で。


 ジンさんは「また、儲けさせてくれよ」と悪い笑顔で。


 フーガさんからは「メルキに戻ったら、家に来い」と、意外なお誘いが。


 最後にロジャーさんは「最先端で待ってる。そう簡単には追いつかせないぜ」と。


 こうして、『流星群』とは、しばしのお別れになった――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『一週間の経過報告(1)』


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