第203話 流星群と打ち上げ(2)
「それで、ボルテンダール墳墓には俺たち三人以外に、誰か一人、入れるのですが……」
俺はロジャーさんに問いかける。
「ああ、スマンが、無理だ。悪いな」
ロジャーさんは手で俺の言葉を冴えぎった。
「さっき、一枚噛ませろって言ったばっかだが、今回は断らせてもらう」
意外な反応に俺が戸惑っていると――。
「理由が気になるか?」
「ええ、教えてもらえれば」
「直感だよ、直感」
ロジャーさんは声をあげて笑う。
「それじゃ、伝わらねえよ」
苦笑しながら、口を挟んだのはジンさんだ。
彼はお金儲けが大好きで『流星群』の頭脳とも呼ばれる知性派だ。
彼が代わって説明してくれる。
「こういうときのロジャーの直感はだいたい正しい。問題はどうしてその結論にたどり着いたか、本人も理解していないところだ」
その言葉には、ロジャーさんへの絶対的な信頼がこもっていた。
実際、『流星群』の他の三人も頷いている。
「俺たちとレントたちが仲良くするのは良いことだ。しかし、馴れ合うのは、お互いにとって良くない」
馴れ合いか……たしかに。
「俺たちは対等なパーティーであるべきだ。甘えたり、甘えられたり、そんな関係ではダメだ」
「そうそう、俺が言いたかったのはそういうことだぜ。さすが、ジンは賢いぜ」
「そうですね。確かに、甘えていました。今回の話も、まっさきに『流星群』にお願いしましたし、断られるなんて、考えてもいませんでした」
「ロジャーも悪い」
フーガさんが端的に述べる。
「おいおい、俺が悪いのかよ」
「コイツ。頼られるの大好き。先輩風ふかすのもっと好き」
コメットさんが辛辣な言葉を投げつける。
「確かに、レントが本気で困っていたら、喜んで手を貸す。でも、今はそのときじゃねえ」
「そうですね」
「俺たちはメルバの大迷宮に挑む。いずれ、本当に必要なときに役立てるようにな。もう一度鍛え直しだ」
ロジャーさんは冒険者の顔で続ける。
「お前たちは強い。これからも強くなる。だが、そう簡単には追いつかせねえ。それが俺たちの矜持だ」
「はい、追いついて見せます」
「期待してるぜ」
ロジャーさんはいつもの笑顔を輝かせる。
そこにナミリアさんが話しかけてきた。
「レントちゃんとの修行中に思いついたんだけど」
「なんでしょう?」
「レントちゃんは無属性魔法に付与魔法をかけたじゃない」
俺は頷く。
「他の魔法を同時に発動させる――それはレントちゃんのスキル【
「その通りです」
「だったら、【魔蔵庫貸与】で魔蔵庫を借りてる私たちでも使えないんじゃないかなって」
「あっ……」
その可能性は失念していた。
確かに、彼女の言う通りかもしれないが――。
「今日一日試してみたけど、どうも上手くいかないのよね」
「どうでしょう……」
困っているとエムピーが姿を現した。
「あら、エムピーちゃん。こんばんは」
「その件なら、魔力運用のサポート役エムピーにお任せください~」
「教えてくれるの?」
「もちろんです~。『流星群』の皆様は超お得意様ですから。お安いご用です~」
エムピーはニッコニコだ。
「ナミリアさんの質問への答えですが、それは可能です~。ただし――」
ビシッと指を突きつける。
「そのためには債務者ランクを上げる必要があるです~」
「いっぱい借りて、いっぱい返せってことね」
「ご名答~」
「なら、もっともっと借りないとね」
「毎度です~」
エムピーはぺこりと頭を下げる。
「ランクを上げると、他にも色々特典があるのです~。贔屓にして下さい~」
「あらあら、ずいぶんと優しいのね」
「もちろんです~。優良債務者にはとことんサービスしちゃうです~。ですが、悪質な債務者には――」
「おぉ、怖っ。気をつけないとね」
ナミリアさんがおどけたところで、次はジンさんだ。
「なあ、エムピーさんよ。ちょっと儲け話があるんだがな」
ジンさんに話しかけられ、エンピーの羽がピクッと動く。
「まあ、話だけでも、聞いてくれや」
「いいですね~。魔力の匂いがプンプンします~」
「現状だと、【魔蔵庫貸与】はギルドの窓口を通すしかないよな?」
「そうです~」
「そして、ギルドは最低限の説明しかしない。そうじゃないと、とてもじゃないが回せないからな。後は自己責任だ」
「ですね~。欲深は自滅すれば良いです~」
エムピーは黒い笑みを見せる。
「本当はそう思っていないだろ?」
ジンさんはエムピー以上に黒い笑みを浮かべる。
その顔を見て、エムピーはさらに腹黒い顔つきになる。
「エムピーさんが魔力で儲けたいのと同じで、俺も金には目がなくてな」
「分かります~。同じ匂いがします~。」
「一番良いのは、生かさず殺さずだ。早々と自滅されちゃあ、儲けるものも儲けられねえ」
「びっくりです~。儲けに目ざとい匂いは感じてましたが、そこまで分かってる人だとは思ってませんでした~」
「そこでだ」
ジンさんはここぞとばかりに、前のめりになる。
「俺が【魔蔵庫貸与】を上手く使いこなすためのガイドブックを作って売る」
「いいアイディアです~。ですが――」
エムピーの発言にジンさんが割り込む。
「まあ、最後まで言わせてくれや。ガイドブックのお代は金だけじゃねえ。魔力も込みだ。出来るんだろ?」
「素晴らしいです~」
ジンさんが右手を差し出し、その人差し指をエムピーが右手でガッシリと掴む。
「商談成立だな」
「成立です~」
「じゃあ、細かいところを詰めていこうや」
「はいです~」
二人が契約を進める中、残りの俺たちは他愛もない会話で盛り上がる――。
「ジン、例のヤツ」
「ああ」
そろそろ引き際かなというときに、ロジャーさんが言い出した。
ジンさんがマジック・バッグからなにかを取り出し、ロジャーさんに手渡した。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『流星群と打ち上げ(3)』
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