第10章ボルテンダールの試練

第202話 流星群と打ち上げ(1)


 ――フラニスの試練をクリアした夜。


 俺たち三人は『流星群』と祝杯をあげる。

 ロジャーさんが予約してくれた高級酒場の個室で、八人揃っても十分に広い。


「おめでとさん」とロジャーさんはシンプルにひと言。


「もう私から教えられることはないわね」とナミリアさんはどこか寂しそうだ。


「三人とも、一週間前とは別人だな」とジンさんは感心した様子で。


「飲め!」とコメットさん。


「……」フーガさんは黙って頷く。


「今日は俺の奢りだ。遠慮すんなよ」


 ロジャーさんの言葉で、打ち上げが始まった。


「レントだから大丈夫だとは思っていたが、ナミリアのしごきに一週間耐えられたんだな」

「ちょっと、人を鬼みたいに言わないでよ」


 ナミリアさんがロジャーさんの肩を叩く。


「いやあ、無属性魔法と付与魔法の合わせ技か。一度、見せてもらいてえところだが――」


 ロジャーさんはニカッと笑う。


「まだ、納得いってないんだろ?」


 図星だった。

 確かに、魔の試練も和の試練もクリアできた。

 だが、俺の熟練度が高ければ、もっと楽にクリアできたのも事実だ。

 まだまだ、完成形とは言えない。


「終わりはない」


 フーガさんが短く言う。

 彼の言う通りだ。

 スキルは鍛えることによって強くなる。

 スキルを使えるのと、使いこなせるのとは全然別だ。


 この先は、魔力でスキルを購入して強くなるのとは別――地道な訓練しかない。

 それでも大量な魔力によって短期間で他人の何倍も魔法を使えるのだから、絶対的なアドバンテージがある。


「そのうち、見せますよ」

「楽しみにしてるぜ」


 そこにコメットさんが割り込んでくる。


「ズルい。ズルい。私もやりたい!」

「コメットはどっちも使えないじゃない」


 興奮するコメットさんをナミリアさんがなだめるが、それでも彼女は落ち着かない。


「レントの取っておきだろ。そう簡単に見せられねえよなあ」


 ジンさんも止めに入ってくれる。


「まあ、そんくらいにしとけ」


 ロジャーさんの言葉で、ようやくコメットさんも落ち着いた。

 さすがは、クセの強いメンバーをまとめ上げるリーダーだけはある。


 ひと段落したところで、俺はフラニスさんから聞いた情報について、皆に説明する。


「――と、こういうわけなんです」

「なんか、きな臭えなあ。お前たち、とんでもないのに巻き込まれたみたいだな」


 ロジャーさんが顔を蹙める。

 そして、絞りだすように告げた。


「それにしても、SSSギフトか……」


 俺がもたらしたのは深刻な話だ。

 他のメンバーも神妙な顔つきだ。


「いざというときは、まず俺たちに声をかけろ。絶対だ」

「どうして、俺たちにそこまでしてくれるんですか?」


 さすがに親切の域を超えている。

 だが、その答はいかにも彼らしいものだった。


「なあに――」


 ロジャーさんはいつもの人好きのする笑みを浮かべる。


「そっちの方が面白そうだからよ」


 ハハハと笑う顔は無邪気そのものだ。


「『流星群』の方はどうでした?」


 彼らはナミリアさんが復帰し、万全の態勢に戻った。

 今日は、本気でボルテンダール墳墓周辺の砂漠地帯に挑み、墳墓まで到達してみせると自信満々だったのだが――。


「それがなんとも言えねえ結果でな」


 彼にしては珍しい、歯切れの悪い言葉だ。

 他の四人も同じような顔つきをしてる。


「最初の目的は達成した。エリア5を踏破して、墳墓にはたどり着けた。だが――」


 不満げに告げる。

 その顔からは理不尽さへ納得してないことが伝わってくる。


「中に入れねえ」

「入れなかったんですか?」

「ああ。あれは入り口が見つからねえとか、入り口がないとか、そういう話じゃねえな。なにか特別な条件がなければ、中に入れない。そういうヤツだ」


 ロジャーさんは首をかしげる。

 やはり、フラニスさんが言っていたのは本当のことだったようだ。


「ラーシェス」

「うん。コレ」


 彼女はフラニスさんから授かった指輪を見せる。


「これがないと入れないんだって」

「そういうことかよ。道理で入れねえわけだ。骨折り損だったか――」


 一瞬、ガッカリしたようだが、ロジャーさんはすぐに表情を切り替える


「まあ【魔蔵庫貸与】をだいぶ理解できた。それだけでも十分な収穫だ。レント、ありがとな」

「いえ、こちらこそ一週間もナミリアさんをお借りしてしまって」

「それにしても、死んでまで愛を貫くか。俺には理解できねえ。そこんとこどうよ、フーガは?」


 急に話題を振られても、フーガさんは表情を変えない。

 肯定しているのか。否定しているのか。


「それで、ボルテンダール墳墓には俺たち三人以外に、誰か一人、入れるのですが……」


 俺はロジャーさんに問いかける。








   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『流星群との打ち上げ(2)』




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