第198話 SSレントとの出会い:ナミリアの場合


 ――レント修行最終日の前夜。


 今日の修行を終えた三人は、街に戻り夕食をとる。

 一週間の疲労でボロボロのレントは、食事もそこそこに切り上げ、宿に戻っていた。

 食堂に残された二人の会話だ。


「レントちゃん頑張ったわね」

「レンレンは頑張った」

「これで少しは恩返しできたかな」

「私も恩返しできたの」

「あら、違うわよ」

「うん。違うの」


 どうも二人の会話が噛み合わない。


「シャノンちゃんは、【魔蔵庫貸与】のお礼でしょ? 私は違うわ。何年も前から借りっぱなしの恩があったのよ」

「それは私の話なの。私こそ、ずっと前からレンレンに借りがあったの」


 意外な一致に、二人は驚く。


「へえ、そうだったの。でも、私の方が大きいわ」

「違うの。私の方なの」


 二人は張り合う。

 シャノンはキツい目でナミリアを見る。

 だが、ナミリアは優しい目でそれを受け止める。


 ナミリアはシャノンを小動物みたいに可愛いと思って好意を寄せてる。

 逆に、シャノンは自分にはないナミリアの成熟した身体に嫉妬している。


「じゃあ、どっちから話す?」

「…………そっちからでいいの。私が後攻で逆転するの」

「ふふっ」


 ナミリアは笑みを湛え、昔を思い出すように目を細める。

 彼女の気持ちが分かったので、シャノンは黙ることにした。

 そして、ナミリアがレントとの出会いを語り始めた――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 あれは私が『流星群』に入る前のこと。

 『流星群』に落ち着くまで、私がいくつかのパーティーを渡り歩いていたのは知ってるでしょ。


 どのパーティーも私には相応しくない。私には見合わない。

 あの頃はそう思ってたの。未熟だったのね。


 レントちゃんと出会ったのは、あるパーティーを見限って脱退した日だったわ。

 怒りと憤り。自分は頑張っているのに、他のメンバーは努力しない。私についてこられない。

 それが許せなくて、パーティーを飛び出したのよ。


 それでやけ酒しようと思ってギルド酒場に行ったのよね。

 たまたまその日は混み合っていて、ひと席しか空いてなかった。


 そこにいたのがレントちゃん。

 彼とは偶然の出会いだったわ。

 『断空の剣』で上手くやっている頃だったわね。


「ねえ、ここ空いてる」

「あっ、えっ……空いてますけど」

「私はナミリア。君は?」

「レントです」

「私はCランクだけど、レントは?」

「僕もCランクです」

「へえ」


 全然、強そうに見えなかった。

 同じCランクでも、私は仲間に足を引っ張られてCランク。だけど、この子は仲間に助けられてCランク。

 そう思うと、イライラしちゃって、八つ当たりしちゃった。

 私もまだ若くて未熟だったからね。


「その割には、戦えなさそうだけど?」

「あはは、そうですね」


 怒らせるつもりで挑発したけど、彼は笑うだけだった。

 舐められてもこの態度、本当の腰抜けだと思ったわ。


「僕は支援職ですから」


 だから、仲間に甘えてる――私の怒りは限界で、爆発しそうだった。

 でも、彼は腰抜けでも、仲間に甘えてるわけでもなかった。


「僕のスキルで、仲間を強く出来るんです。僕が強くなくても良い。仲間をサポートするのが僕の仕事ですから」


 謙遜してるのでも、卑屈になってるのでもない。

 自信満々の言葉だった。

 まっすぐで、青臭い――でも、芯のある言葉だった。


 スッと熱が冷めたわ。


 ――私が勘違いしてたんだ。


 どうして私の付与魔法を生かせないの。

 どうしてもっと鍛えようとしないの。

 それで仲間に腹を立てていた。


 でも、上手くいかなかった原因は、仲間じゃない。

 独りよがりで仲間に届かない付与魔法しか使えなかった私だって気付かせてくれた。


 同じポジションなのよね。レントちゃんも私も。

 どちらもサポート職。自分が目立つのではなく、縁の下から仲間を支えるのが仕事。

 それを教えくれたのがレントちゃんなの。


 彼としては当たり前のことを言っただけ。

 それが私に突き刺さったなんて思ってもいないでしょうね。


 だけど、彼の言葉は――。

 私を変えてくれた。

 反省させてくれた。

 成長させてくれた。


 気付いたときには恋に落ちてたわ。

 7歳も年下の彼にね。


 だから、その場で彼にアプローチしたの。

 今みたいにふざけた態度じゃなくてね。


 でも――きっぱりとフラれちゃった。


「僕には将来を誓った相手がいますので」


 だから、冗談にするしかなかったの。

 あの女の本性を知らなかったからね。

 知っていたら、力尽くでも奪い取ってたわよ。


 ともかく、最初を冗談にしちゃったから、その後も冗談を続けるしかなかったのよ。

 だから、今になって、本気の思いを伝えられなくて――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


「とまあ、私はこんなところ。そっちはどうなのよ?」

「じゃあ、今度は私の番なの」







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『レントとの出会い:シャノンの場合』


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