第197話 SS 第一回『あるじのここが好き』選手権(下)

「では、続いて、アンガーの番です~。リンカさんの良いところを言うです~」

「おっ、おいらか。任せるッス」


 アンガーはドンッと胸を誇らしげに叩く。


「ウチの姐御は仏恥義理ぶっちぎりでイケイケッス。どんな相手だろうと喧嘩上等で特攻する姿はビッとして最高にマブいッス。一生ついていくッス」


 独特な話しぶりは二匹にはいまいち分からなかったが、その熱い思いだけはしっかりと伝わってきた。


「駄猫は、リンカさんのどこが良いです?」

「リンカは優しいニャ。オーナーがやり過ぎたとき、止めてくれるニャ」

「そうです~。リンカさんは優しいです~。しかも、リンカさんも優良債務者です~。とくに【弐之太刀】が美味しいです~。一回で3分の2も魔力消費するです~。ガンガン連発して欲しいです~。リンカさんは、今後も魔力消費の多いスキルを覚えるので、今から楽しみです~」


 うっとりとした口振りのエムピーに、二匹は呆れ顔だ。


「エムピーは魔力以外は興味ないのかニャ?」

「姐御に対して、失礼ッス」


 二匹は不満をあわらにするが――


「魔力以上に大切なものってありますか~?」


 二人は揺らぎない姿にこれ以上言っても無駄だと口をつぐむ。


「さすがにそれは冗談です~。二人ともマスターの良い仲間です~。マスターが二人をサポートし、二人がマスターをサポートする。最高の仲間です~」

「そうッス」

「それは同意ニャ」


 二匹とも、エムピーは魔力にしか興味を持っていないと思っていた。

 だが、意外にも真っ当なことを言うエムピーに、二人も納得する。


「それでは、最後にマスターの良いところですが、私は最後にします~。イータからどうぞです~」

「ズルいニャ。エムピーから言うニャ」

「司会者の特権です~。駄猫は黙るです~」

「おいらは、別に構わないッス」


 エムピーはアンガーを見て頷く。


「では、アンガーからです~」

「むっ、無視するニャ~」

「うっす。レント君の良いところは、ビシッと筋を通すところッス。男の中の男ッス」

「うんうん、良く分かってるです~」

「『断空の剣』への制裁、おいらは姐御の中から見てたッスが、一切手加減せず、裏切り者に鉄鎚を下したのが、最高にスカッとしたッス」

「そんな話があったかニャ?」

「あれを見逃したのは、もったいなかったッスよ」

「はーい、アンガーは百点満点の答です~」

「うっす」


 エムピーに褒められ、アンガーは気合いの入ったポーズで応じる。


「では、駄猫の番です~」

「イータは、美味しい魔力だ大好きだニャ~」

「確かにマスターの魔力は極上です~」


 イータもエムピーも蕩けた顔を見せる。

 しばらくして、エムピーは元の顔に戻り、イータを問い詰める。


「で? 他には? マスターの良いところは? 性格は?」


 いや、元の顔ではない。

 いつものエムピーのまとう朗らかな空気が一変して張り詰める。


「ニャニャ⁉」

「まさか、魔量だけじゃないよね?」

「ちっ、違うニャ……他にも、レントの良いところはあるニャ」


 慌てて取り繕おうとするイータの頭をハリセンで叩く。


「レント? マスターのことを呼び捨て? 駄猫には、お仕置きが必要かな?」


 まるで飼い主のラーシェスが乗り移ったような口調にイータは震え上がる。


「ごっ、ごめんニャ。レントさんニャ。これからはちゃんと『さん付け』で呼ぶニャ」


 イータは必死に頭を下げる。

 その頭にエムピーがハリセンを連打。

 激しい音が響き渡るが、本来、ハリセンは音の割りに痛みが少ない責め具、もとい、道具だ。

 そのはずなのだが……。

 イータは叩かれるたびに悲鳴をあげ、しおらしくなっていく。

 やっぱり、痛いのかもしれない。


「そろそろ、許してやるッス。コイツもしっかり、反省したッス」

「そうニャ。ごめんなさいニャ」

「分かればよろしい」


 エムピーはスッキリした顔で言う。

 一方の、イータはヘロヘロだ。


「早く、答えるです~」


 エムピーはいつもの口調に戻ったが、イータは震え声のまま答える。


「レントさんは優しいニャ。オーナーを救ってくれたニャ。【魔蔵庫貸与】でみんなを幸せにするニャ。戦いのときも、周りをよく見て、オーナーのサポートしてくれるニャ。それと、オーナーが【魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション】を使えるのも、レントさんの魔力があるからニャ。その他にも――」

「よろしい」


 恐怖にかられていつまでも続きそうだったイータの弁明だったが、エムピーはそれを途中で止める。


「それだけ分かってれば良いです~。普段から、その気持ちを忘れず、感謝するです~」


 イータはコクコクと頷く。

 もともとエムピーに苦手意識を持っていたが、ラーシェスだけでなく、エムピーも怒らせてはならないと悟った。

 とくに、マスターであるレントのことには要注意だとも。


「では、最後に、私が思うマスターの良いところです~」

「うす」

「ニャ」

「それは――」


 エムピーは自信満々に胸を張る。


「マスターの良いところは――全てです」

「え?」

「ニャ?」


 予想外の発言に、二匹は驚きの声を漏らした。


「マスターは完璧な存在です~。それ以上の言葉が必要ですか~」


 自分は間違ったことは言っていない。

 自分の言葉が真実である。

 エムピーの態度は揺るぎない。


 先ほど、折檻されたイータも。

 それを見ていたアンガーも。

 黙って、首をコクコクと動かすしか出来なかった。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『レントとの出会い:ナミリアの場合』


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