第196話 SS第一回『あるじのここが好き』選手権(上)


 ――レントたちが寝静まった夜。


「ではでは、第一回『あるじのここが好き』選手権、始めます~」

「なんニャいきなり」


 エムピー、アンガー、イータの3匹が集まったところで、エムピーが唐突に宣言する。


「なんか面白そうッス!」

「もう眠りたいニャ」

「アンガー」

「オッス」


 エムピーの合図で、アンガーがイータの頭をグリグリする。


「やっ、止めるニャ」

「気合い入れるッス」

「起きた、起きたニャ。それで、なにするニャ」


 不服そうではあったが、イータも眠るのを諦めた。

 それでも、半分眠っているようなものだったが。


「それぞれ、あるじの良いところを言い合う会です~」

「良いッスね」

「分かったニャ。あまり気乗りしないけど、つき合うニャ」


 うんうんと、エムピーは頷いてから告げる。


「では、まずはくじ引きです~」


 どこから取り出したのか、三本の棒が入った箱を二匹の前に差し出す。

 それぞれの棒には1から3の数字が書かれている。


「うす。おいらから引くッス。こういうのは勢いが大事ッス!」


 アンガーは考えることなく、1本の棒を掴み上がる。


「2番ッス」


「次は駄猫の番です~」

「む~、こういうの苦手ニャ。いつも外れを引くニャ」


 やはり、その言葉がフラグとなった。


「1番ニャ」


 イータが嫌そうな顔をする。


「ということで、私は3番です~。ラストです~」


 エムピーが二人を見て告げる。


「では、トップバッターは駄猫です~」

「エムピー、その呼び方止めるニャ。イータはイータニャ」

「どうでも良いこと言ってないで、早くラーシェスさんの良いところを言うです~」

「オーナーの良いところは…………とっても……優しいところ……ニャ」


 言葉と裏腹に、イータの声は震えている。

 主の調教――もとい、躾が、しっかりと行き届いているようだ。


「それは本音ですか~?」

「…………ニャ」

「本音を言うッス」

「………………」


 言葉を失ったイータだったが、二人にジッと見つめられて、重々しい口を開いた。


「オーナーは怒らせると怖いニャ」

「ちゃんと言えて偉いです~」

「良く言ったッス!」

「でっ、でも、それだけじゃないニャ」


 イータは慌てて首を振る。

 もし、この言葉がラーシェスに届いたら、どうなることか……。


「お仕置きの後には、ちゃんと可愛がってくれるニャ。とっても優しいニャ」


 飴と鞭――ふたつの使い分けで、イータはバッチリ調教されていた。


「イータはちゃんと答えたニャ。次はアンガーニャ」

「おう、姐御の良いところは――」

「ストップ、ストップ、ストップです~」


 口を開きかけたアンガーをエムピーが止める。


「どうしたッス? おいらの番ッスよ」

「ただ、自分のあるじの良いところを言うだけじゃつまらないです~」

「どういうことッス?」

「意味を説明するニャ」

「自分以外のあるじの良いところも言うです~」


 エムピーの提案に、ふたりは躊躇う。


「他人のあるじのことは難しいッス」

「そうニャ」

「その気持ちは分かるです~。でも、こっちの方が面白いです~」


 エムピーはニコニコと笑みを浮かべる。


「というわけで、次はアンガーがラーシェスさんの良いところを言うです~」

「分かったッス」


 アンガーはしばし、考え込む。

 サポート妖精にとっては、自分のあるじが至上。

 他人のあるじのことを、深く考えたことなどなかった。

 それでも、アンガーは思いついた言葉を述べる。


「ラーシェスの姐御の良いところは、笑っていても、目の奥が笑っていないところッス」

「それは悪口ニャ」

「違うッス。あの冷酷で容赦無用な目にゾクゾクするッス!」

「おまえ、もしかして、そういう性癖ニャ? だったら、変わってやるニャ」

「無理ッス。確かにラーシェスの姐御もビッとしてるッス。でも、おいらには姐御しかいないッス」

「は~い、ストップです~」


 このままでは言い合いが始まりそうだったので、エムピーがそれを制する。


「私の番です~。ラーシェスさんは優良債務者です~。特に、【魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション】が最高です~。どこまでも魔力を吸い尽くす、最高のスキルです~。しかも、駄猫のエサには、もったいないくらい魔力を借りてくれるです~」


 恍惚とした表情で告げるエムピーに二人は引き気味だ。


「では、続いて、アンガーの番です~。リンカさんの良いところを言うです~」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『SS第一回『あるじのここが好き』選手権(下)』


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