第195話 フラニスとの対話

「私はSSSギフトの持ち主ですらないわ。【御魂喰いみたまぐい】は――」

「それは……もしかして」

「ええ、ボルテンダール。彼が【御魂喰いみたまぐい】の持ち主よ」


 フラニスがラーシェスに感じた『彼』の面影――それがボルテンダールだった。


「二人はどうやって知り合ったの?」


 ラーシェスは【御魂喰いみたまぐい】ことよりも、二人の馴れ初めの方に興味があるようだ。


「彼はね、怪我した私を助けてくれたの。【御魂喰いみたまぐい】でしか治せない怪我をね。私の命の恩人なの」

「【御魂喰いみたまぐい】でしか治せないとは?」

「それは私からは言えないわ。彼が教えてくれる」


 ニッコリと笑顔で告げる彼女からはこれ以上聞き出せなさそうだ。


「それで私は恋に落ちた。女の子は助けてくれた男の子に惚れるものよね」


 その言葉に、リンカとラーシェスが俺の方を向く。

 よく見ると、二人とも顔が赤い。

 きっと俺の顔も真っ赤だろう。


「ふふっ。初々しいわね」


 結婚して子までなした彼女にとっては、そう映るのだろう。


「まあ、そういうわけだったんだけど、私はウィラード伯令嬢、そして、彼はSSSギフトの持ち主とはいえ平民。両親には結婚を反対されたわ」


「だけど、ちょっと、したら、すぐに認めてくれたわ」


 ラーシェスを怒らせるとどうなるか。

 それはイータの扱いを見れば分かる。


 彼女の性格がラーシェスに遺伝したのかもしれない。


「まあ、そんな感じ。彼とは無事、添い遂げられたわ。彼が眠っているのは――」

「ボルテンダール墳墓ですね?」


 俺の問いに彼女は静かに頷く。

 やはり、ボルテンダール墳墓に彼が眠っているのだ。

 死後の平安を守るために、サンドゴーレムを配置したのだろう。

 今まで、誰も彼の眠りを覚ますことが出来なかった。


「彼も私と同じ。SSSギフトの持ち主の為に、死後も尽くしているの」

「俺たちのために……」

「ここの試練は前座。彼の試練はもっと厳しいわ。耐えられるかな?」

「俺たち3人なら、行けますよ」

「頼もしいわね。SSSギフトの持ち主に待ち構えている茨の道を、彼は示してくれるわ」


 彼女はそっと、ラーシェスに近づく。


「これが私の試練をクリアした報酬よ。ラーシェス、受け取って」


 そして、ラーシェスの腕を取り、その指に指輪をはめる。


「この指輪が彼の元へと、あなたを導くわ」

「この指輪が……」

「あなたなら出来るわ。だって、私と彼の血を継いでいるんだもの」

「はいっ!」


 元気良いラーシェスの返事に安心したようで、彼女は話題を変える。


「そうそう。本来、彼の墳墓にはSSSギフトの持ち主しか入れないんだけど……」


 名案を思いついたと、ポンと手を叩く。


「さすがに、三人は厳しいわね。オマケしてあげる」

「オマケとは?」

「SSSギフトの持ち主以外も、一人だけ一緒に入れるようにしてあげる」

「そんなことして、いいんですか?」

「心配してくれて、ありがとう。でも、大丈夫。きっと、『フラニスなら、仕方ない』って言ってくれるわ。不貞腐れた顔をすると思うけど、照れ隠しで本気で怒ってるわけじゃないから、安心してね」


 一生を添い遂げた二人の間には、俺たちが知り得ない信頼関係があるのだろう。


「さあ、そろそろ、お別れね。私と彼の血を継ぐラーシェスに祝福を――」


 それだけ言い残すと、フラニスは消え去った――。


 ――次の瞬間。


 俺たちは外に出ていた。

 フラニス廟があった場所からは、建物が綺麗さっぱり消えている。


「終わったみたいだな」

「そうですね」

「やったー!」


 三人で喜びを共有していると、サポート妖精たちが姿を現した。


「マスター、やったです~!」


 エムピーが俺の周りを飛び回る。


「姐御、お疲れ様でした」


 アンガーは腰を低くしてリンカを労う。


「オーナー、魔力くれニャ。お腹空いたニャ」


 黒毛になったイータがラーシェスに飛びつく。

 そのイータに向かって、エムピーとアンガーがツッコミを入れる。


「駄猫、空気読みなさい~」


 どこからか取り出したハリセンを取り出したエムピーがイータを叩くと――。


「ラーシェスの姐御に失礼ッス」


 アンガーがイータを羽交い締めにする。


「二人とも、ありがとう。でもね、それは飼い主の躾だから」


 スッと表情を消したラーシェスがイータの首根っこを掴む。


「行ってらっしゃ~い」

「やっ、止めるニャ~」


 空高く飛んでいったイータを見て、いつものやり取りに気が緩んだ。


「街に帰ろうか」


 フラニスの試練を終えたら、次はボルテンダールの試練。

 だが、ひとまずは休息だ。

 街に帰ったら、やることがいくつかある。


 お世話になった『流星群』へのお礼を伝えること。

 伯爵に今回のことを報告すること。

 プレスティトさんから【魔蔵庫貸与】の結果報告を受けること。


 俺たちは達成感とともに、街へ帰還した――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】



 今回で第9章終了です!


 ボルテンダールの試練とは?

 試練に挑む四人目とは?

 【魔蔵庫貸与】の結果はどうなっているか?


 第10章をお楽しみに!


 次章も書きためてから投稿のスタイルで行きますが、 その前にSS挟むかもです。

 しばらくお待ちいただけたら幸いです!



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