第194話 3つの試練を終えて


 あと一歩で緑ガーゴイルは倒せそうだ。

 クラクラする頭で、必死になって2本目の魔力回復ポーションを取り出す。

 覚悟を決めた、その瞬間――空っぽ寸前だった魔蔵庫に魔力が増えた。


 2,339MP――これだけあれば!


 魔蔵庫の魔力は減っていく。

 だが、それに対して、緑ガーゴイルのヒビがどんどん広がっていく。


 やがて――。


 耐えきれなくなった緑ガーゴイルは、粉々に砕け散った。


 俺の残りMPは54。

 ギリギリの勝利だった。


「ふぅ。なんとか二本目は飲まずにすんだか……」

「レント!」


 フラっとそのまま倒れそうになる俺の身体をリンカが支えてくれた。

 そのおかげに、意識を失わずに済んだ。


「レント、大丈夫?」


 ラーシェスも心配そうに俺を覗き込む。


「ああ、なんとか……」


 ゆっくりと呼吸を整え、少し休んだ後。

 俺は立ち上がった。


 急に魔力が増えた理由。

 それは――魔力返済があったからだ。

 【魔蔵庫貸与】で貸していた魔力を、誰かが返済してくれたのだ。


 ナイスタイミングだった。

 あれがなかったら、クリアできなかっただろう。


 魔力貸与は正しい使い方をすれば、他人を助けられる。

 そして、それだけでなく、俺も助けられたのだ。


「もう、大丈夫だ。それより――」


 三体のガーゴイルは消滅した。

 その後、部屋中が光に包まれ。

 光が収まると、そこに現れたのは――。


 眉目麗しき女性だ。

 ラーシェスと同じオレンジ髪をしている。

 顔立ちはラーシェスに似ており、数年後のラーシェスはきっと彼女のようになるのだろうと想像できた。


「ウィラードの血を引く者よ。よくぞ、3つの試練をクリアしました」

「えーと、あなたは?」


 さっきまでの声はしわがれた老人の声だった。

 だから、老翁が出てくるものだとばかり思っていたのだが……。


「ああ、あの声? そっちの方が雰囲気出るでしょ」


 俺の思いが顔に出ていたのか、彼女が答える


「ちょっと驚かせようと思って。驚いたでしょ?」


 彼女はペロッと舌を見せる。お茶目な性格のようだ。


「あなたがフラニスさん? ボクのご先祖様なの?」

「そうよ。私はフラニス・ウィラード。確かに私はウィラード家の先祖よ。あなたの、ひいおばあちゃん、もっと前かもしれないわね」

「やっぱり、ご先祖様なんだ……」


 ラーシェスが放心した顔で呟く。

 遥か昔に死んだ先祖と対面するのは、どういう気持ちだろうか……。


「まあ、もう、死んじゃったけどね。今の私は残留思念みたいなものよ。こうやって会話出来るけど、それも少しだけ。役目を終えたら、天に召される。先に行って、彼を待つわ」


 死した後に果たされる役目とは、余程重大なことだろう。

 彼女だけでなく、きっと、俺たちにとっても。


「可愛い子、あなたの名前は?」

「ラーシェスだよ」

「よく似ているわ。私にも、そして、彼の面影も感じられる」


 フラニスはラーシェスを抱きしめ、その瞳から涙がひと筋、頬を伝う。


「ごめんなさいね。つい、懐かしくて」


 彼女は名残惜しそうにフラニスからそっと身体を離す。

 また、『彼』だ。

 彼女が言う彼とは……。


「まずは、3つの試練、クリアおめでとう。この試練は【御魂喰いみたまぐい】が仲間に恵まれているかを試す試練よ」


 武力を試す――武の試練。

 魔力を試す――魔の試練。

 団結を試す――和の試練。


「どれも、あなた一人ではクリアできないものよ。良い仲間に巡り会えましたね」


 フラニスがラーシェスに笑顔を向ける。


「それにしても、よく三人でクリアしたわね。ビックリしちゃった。本当は五人以上でクリアするのを想定していたのに」


 不思議そうな彼女の視線が俺で止まる。


「あら」


 彼女は俺を見て、「ああ」と呟く。


「もしかして、君、【強欲】?」

「はい」

「ああ、それなら納得ね。【強欲】は反則よね」


 確かに自分でもそう思っているけど、昔の関係者からもそう思われているのか。


「フラニスさん、もしかして、あなたも【御魂喰いみたまぐい】なの?」

「いいえ、残念だけど、そうじゃない。でも無関係ではないわ」


 ラーシェスの問いかけに、フラニスは首を横に振る。


「私はSSSギフトの持ち主ですらないわ。【御魂喰いみたまぐい】は――」

「それは……もしかして」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『フラニスとの対話』


楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る