第193話 和の試練(3)


 俺とラーシェス、二人で一緒に赤ガーゴイルに向かった――。


 奴は俺たちに向けて赤光線を放つが――分かっていればどうということはない。

 俺もラーシェスも華麗に躱し、赤ガーゴイルに接近する。


 初撃は俺のダガー。

 赤ガーゴイルの肩をつく。


 ダメージは大したことがない。

 だが、翼の付け根に衝撃を受け、赤ガーゴイルはバランスを崩す。

 そこを衝くのが――。


『――【魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション】』


 水平になぎ払われた血統斧レイン・イン・ブラッドが赤ガーゴイルの胴に食い込んだ。


「ラーシェス、魔力は温存だ」


 チラリとリンカを見て、ラーシェスに告げる。

 リンカは緑ガーゴイルを翻弄している。

 これなら、復活魔法を唱える隙は与えないだろう。


 この後の本命である緑ガーゴイルは、ラーシェスの【魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション】でなければ倒せない。

 俺の魔力も心許ない。

 ここは時間をかけてでも、魔力を使わずに赤ガーゴイルを倒すべきだ。


 そして、俺とラーシェスなら、それが可能だ――。


 ラーシェスは一週間前と違う。

 以前は自分と敵しか見えていなかった。

 だが、今は周りを見て、仲間に合わせられる。


 ピタリと噛み合ったコンビネーション。

 ダンスを踊るように心地よい。


 このままずっと続けたくなるが――その前に終わりが来てしまった。


 ダガーと血統斧レイン・イン・ブラッドで傷まみれになった赤ガーゴイルは、ついに砕け散った。


「よし、後は緑だけだ」

「うん」

「リンカ、よく頑張ってくれた。続けて牽制してくれ。これで終わらせる」


『――【弐之太刀】』


 跳び上がったリンカが緑ガーゴイルの頭上から剣を斬り下ろす。

 もちろん、ノーダメージだが、緑ガーゴイルは地面に叩きつけられた。


「ラーシェス、行け」


『――【魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション】』


 血統斧レイン・イン・ブラッドから緑ガーゴイルに魔力が流れ込み、どんどんとダメージが積み上がっていく。

 それに合わせて、ラーシェスのMPも減少していく。


 彼女の最大MPは200ちょっと。

 すぐに空っぽになってしまうが――。


 【自動補填オートチャージ】によって、俺の魔蔵庫から彼女へと魔力が流れる。

 俺の魔力はぐんぐん減っていくが、一向に倒せる気配がしない。


 俺の残り魔力は――。


 1,000。

 900。

 800。

 700。

 600。

 500。

 400。

 300。

 200。

 100。


 マズい。

 貯まっていた魔力が残りわずか。

 緑ガーゴイルを倒せるのが先か。

 それとも、俺の魔力が尽きるのが先か。


 頼むッ!

 なんとか、間に合ってくれッ!


 リンカと、ラーシェスの顔を見る。

 二人とも、勝つことしか頭にない。

 だったら、俺も踏ん張ってみるか。


「リンカ、もしもの時は頼む」

「はいっ!」


 前もって二人には話してある。

 最悪の場合、俺を担いで逃げてくれと。


 大きく息を吸い込み、覚悟を決める。


 90。

 80。

 70。

 60。

 50。

 40。

 30。

 20。

 10。


 あまりやりたくはなかったが、最後の手段だ。

 俺はマジック・バッグからある物を取り出す。

 そして、それを一気に飲み干す。

 魔力回復ポーションだ。


 途端に耐えがたい苦痛が全身を襲う。

 膝をついて、頭が割れそうになるが。

 魔力供給が途切れないように、意識を保つ。


 ――魔力回復ポーション中毒。


 魔力回復ポーションはお手軽に魔力を回復できる反面、その濫用は、身体に悪影響を及ぼす。

 ガイたちを苦しめた魔力回復ポーション。

 最悪、ミサのように廃人になってしまう


 そして、俺も――魔力回復ポーション中毒だ


 まだ『断空の剣』にいた頃、俺は奴らに無理矢理飲まされ続けた。

 自分たちで飲めばいいのだが、嫌な役目は全部俺に回された。


 そのせいで、俺は一本飲むだけでも、激しい拒否反応が起こる。

 だから、【無限の魔蔵庫】に目覚めてから、魔力回復ポーションで魔力を増やそうとはしなかったのだ。


 今も、意識を手放したくて堪らない。

 二本目を考えると、恐ろしくなる――。


 ポーションで魔力を回復したことによって、【魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション】によるダメージは継続している。

 緑ガーゴイルの全身にヒビが広がる。

 ほとんど破壊寸前だ。


 もう少しで倒せそうな直感がする。

 ここまで来たら、倒しきりたい。

 だが、無情に魔力は減っていく。

 それでも緑ガーゴイルは倒せない。

 早く倒れてくれという必死に願うが――。


 10。

 9。

 8。

 7。

 6。

 5。

 4。

 3。


 マズい。

 クラクラする頭で、必死になって2本目の魔力回復ポーションを取り出す。

 覚悟を決めた、その瞬間――空っぽ直前の魔蔵庫の魔力が増えた。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『3つの試練を終えて』


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