第192話 和の試練(2)


 一方のリンカは――。


 【壱之太刀】と俺の付与魔法で強化された彼女は、緑ガーゴイルにつけいる隙を与えず、絶え間ない連撃を叩き込む。

 ラーシェスが苦戦した相手だが、やはり、戦闘力はまだリンカの方が明らかに上だ。


 が。


「ダメですっ」


 そちらを向くと、リンカがいくら攻撃しようと、緑ガーゴイルには一切ダメージが通っていないことが分かった。

 予想はしていたが、そう甘くはないようだ。

 多分、きっと……。


「ラーシェス、どいて」


 彼女が時間を稼いでくれたおかげで、シャノンズロッドに十分な魔力を注ぎ込めた。

 これなら――。


「無空弾」


 2万近く魔力をつぎ込んだ。

 シャノンズロッドにより馴染んだようで、出力が倍くらいになっている。


 飛んでいった無空弾は青ガーゴイルを貫く。

 青ガーゴイルも赤ガーゴイル同様に消滅する。


 これで残りは緑ガーゴイル一体。

 なのだが……。

 嫌な胸騒ぎがするが、ここは勢いに任せる――。


「二人とも緑ガーゴイルに総攻撃だ」

「はい!」

「うん」


 こういう場合の作戦は決めてある。


「ファイアランス」

「ファイアランス」

「ファイアランス」

「ファイアランス」


 まずは俺が魔法で牽制だ。

 無数の炎槍が緑ガーゴイル目掛けて飛んでいく。

 が。

 やはり、ダメージは通らない。


 だが、目的は牽制だ。

 次いで――。


「リンカ」

「はい」


 リンカが連撃で緑ガーゴイルの足を止める。


「ラーシェス、今だ」

「うん!」


『――【魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション】』



 ラーシェスが血統斧レイン・イン・ブラッドで緑ガーゴイルに斬りかかる。

 斧は緑ガーゴイルを捉え、ラーシェスは魔力を流し込む。

 この技は魔力を注げば注ぐだけ、威力が上昇するスキルだ。


 予想通り、このスキルならダメージを与えられる。

 だが、ガーゴイルが急上昇したせいで、ラーシェスの攻撃が途絶える。


 そして、急に緑ガーゴイルの身体が緑色の光に包まれる。

 緑ガーゴイルはしばらく光り続け、その後「ギィギィ」と声を上げた。

 痛みゆえの叫びかと思ったが、期待は裏切られた。

 最悪のかたちで――。


「なっ⁉」


 倒したはずの赤ガーゴイルが復活した。

 さっきの光がこの魔法だったのだろう。


 ――やはり、一筋縄ではいかないか。


 赤ガーゴイルは赤い光線をラーシェスに向かって放つ。

 攻撃に集中していた彼女は、気づくのが遅れた。


「ラーシェス!!」


 俺の叫びは間に合わない。

 その代わり――。


 飛び出したリンカは間に合った。

 ラーシェスの前に立ち、全身で光線を受け止める。

 幾条もの光線がリンカの身体を引き裂き、赤い血が飛び散った。


「ラーシェス、下がれ。いったん、立て直す」

「うん」


 俺は苦しむ顔のリンカを抱え後ろに下がる。

 ラーシェスも一緒に下がった。


『――【土壁アースウォール】』


 俺はガーゴイルたちとの間に土壁を生み出し、遮断する。


「俺が守る。ラーシェスはリンカを癒やしてくれ」

「わかった」


『――【魂魄浄化クレンズ・ソウル】』


 ラーシェスの血統斧レイン・イン・ブラッドから白い光がリンカに流れ、傷を治していく。


「もう、大丈夫」


 リンカが立ち上がるのと、赤ガーゴイルの光線が土壁を砕くのと、同じタイミングだった。


 ――どうするか。


 背後を振り向いて、安心する。

 閉じ込められていない。

 いつでも逃げられる。


 ――逃げるべきか。


 ピンチだからといってすぐ逃げるようなら、逃げ癖がついてしまう。

 逃げ癖がつくと、ピンチで粘る戦力が身につかない。

 そして、いざ逃げられないという状況になったら、パニックに陥って全滅だ。

 とくに俺たちは出来上がったばかりのパーティー、ここで簡単に逃げ出すわけにはいかない。


 ――だが。


 かといって、無茶はダメだ。

 命懸けで倒さなきゃならない相手ではないし、敗退しても次がある。

 そのギリギリを見極めるのがリーダーである俺の役目だ。


 俺は一瞬で判断を下す。


「リンカ、緑ガーゴイルの邪魔をしてくれ。青ガーゴイルを復活させるな」

「任せて」


 さっきは俺の無空弾が青ガーゴイルに邪魔された。

 そのお返しだ。


 緑ガーゴイルはリンカに任せたので問題ない。

 後は赤ガーゴイルだ――。


「ラーシェス、一緒に赤ガーゴイルを倒すぞ」

「うん」


 最初、リンカに赤ガーゴイルの相手を任せたのは、彼女がウチのパーティーで最強のアタッカーだからだ。

 だが、物理攻撃なら、俺もラーシェスも可能だ。


 俺はダガーを構え。

 ラーシェスは血統斧レイン・イン・ブラッドを。


 二人で一緒に赤ガーゴイルに向かった――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『和の試練(3)』


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