第190話 魔の試練(2)


「次はレントちゃんの番ね。構えてみて、まずは構えるだけでいいわ」


 ナミリアさんに言われた通りにする。

 シャノンさんと違い、俺は魔法用の杖を持っていない。

 なので、両腕を前に突き出すだけだ。


「そのまま、動かないでね」


 ナミリアさんが後ろから近づいてきて――。

 俺の背中に密着する。

 両腕を伸ばし、俺の腕を掴む。

 背中には柔らかい胸が押しつけれられる。

 耳元から彼女の息が伝わってくる。


 明らかに修行の妨害にしかなっていない気がするが……。


「それ必要ですか?」

「ええ、必要よ」


 俺の問いかけに、当たり前のように答が返ってきた。


「実戦では、なにが起こるか分からないわ。多少のことで集中力を落としちゃダメよ。そのための練習。良い訓練でしょ?」

「むぅ」


 声の方を見ると、シャノンさんが顔をしかめていた。


「ムカつくの」

「ゴメンね。シャノンちゃんじゃできないもんね」


 背後なので見えないけど、ナミリアさんの勝ち誇った顔が頭に浮かぶ。

 確かに小柄なシャノンさんでは出来ない方法だ。

 それに、背中に当たる物も……。


 もしかして、この訓練法がしばらく続くんだろうか。

 俺の理性がどこまで耐えられるか。

 別の意味でも修行だ。


「この方法だと、自分でやるより数倍早いわ。一週間で間に合わせるには絶対に必要だわ」


 ナミリアさんが「わたしにとってもね」というのが聞こえた気もするが、俺の聞き間違えだろう……そういうことしておこう。


「どうする? レントちゃん次第よ?」

「ナミリアさんはどうやって練習したんですか?」

「私は独学だったわ。まあ、ちょっと苦労したわね」


 その「ちょっと」は明らかに謙遜だろう。

 その思いは修行が終わったときに、あらためて痛感した。

 ナミリアさんは本当にスゴい人だ。



□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□



『――【付与:スキル強化】』


 LV3の強化魔法で、無空弾をさらに強化する。

 魔力注入は続けたままだ。


 普通は他人のスキルを強化するためのレベル3魔法だ。

 なぜなら、自分のスキルを使いながら、そのスキルを強化するのは、同時にふたつのスキルを発動させることだ。

 常人には不可能。魔法の天才であるシャノンさんでも、血の滲むような努力をしたナミリアさんでも、それは不可能だった。


 しかし、俺の【自動補填オートチャージ】はそれを可能にする。

 【自動補填オートチャージ】は、今までファイアボール連打など攻撃スキルをリキャストタイムなしで連発する使い方をしてきた。

 だが、今回の修行で【自動補填オートチャージ】は同時に複数の魔法を使えることが判明した。


 ――これが今回の修行の成果だ。


 大量の魔力が流れ込み、無空弾が暴走しそうになるが、【魔力操作LV3】でコントロールし、さらに魔力を流し込んでいく。


 11,000

 12,000

 13,000

 14,000

 15,000


 そこまで魔力を注入して、今までにない感覚を覚えた。

 きっとこれが、リンカの言っていた直感だろう。

 これなら壁は壊せそうだ。


 だが、念のため――。


 16,000

 17,000

 18,000


 よし、ここだ。


「無空弾」


 直径1メートルまで膨れ上がった魔力の塊。

 それがシャノンズロッドの先端から放たれる――。

 無空弾は青壁に向かって、まっすぐに飛んでいく。

 無空弾がぶつかり、壁は爆散する。


 ふぅ。


 無事にクリアできたことに、ひとまず安堵する。


「スゴいです!」

「レント、やったね!」


 二人から褒められて、この一週間が報われたと嬉しくなる。

 だが、まだ、油断は禁物。

 これで試練が終わったとは限らない。

 そして、俺の予想通りに――。


「其方は魔の力を示した。次は最後の試練、和の力を示せ」


 今度は新しい壁は現れない。

 代わりに出現したのは――。


 ――三体のガーゴイルだった。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『和の試練(1)』


飯島しんごう先生によるコミカライズ2巻、発売中です!



楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る