第188話 フラニスの試練、再度(1)
朝食を済ませた俺たちはフラニス廟に向かった。
道中のリンカはいつも通りに戻っていた。
俺も彼女と同じように冒険者モードに切り替わっている。
フラニス廟に入ると、前回同様にしわがれた老翁の声が響く
「ウィラードの血を継ぐ者よ。ここは試練の間。ウィラードの力を継承するに相応しいかどうか、
「リンカ」
「うん」
一度クリアしたこともあり、彼女は一切の気負いがない。
赤い壁の前に立ち、剣を構える。
「
【壱之太刀】を発動し――。
「
――斬ッ!
リンカの一撃で赤い壁にひと筋の切れ目が斜めに走る。
壁の上部が傾き落ちて砕ける。
次いで下部も砕け散る
壁は跡形もなく消滅した。
前回よりも強くなっているので、クリアして当然だ。
しかし、ひとつ気になったことがある。
「手加減した?」
「やっぱり、分かりましたか」
「うん。ボクも分かった。ゴーレムと戦ってたときよりも弱かったよ」
俺の予想は当たっていたが、どうしてなのか、理由までは分からない。
「途中で感じたんです。どれだけ力を込めれば壁が壊れるか。直感的に理解できました」
前回は赤壁に大きな亀裂が入った。
それに対し、今のは細いひと筋。
まったく無駄がない攻撃だ。
「前回はそんなことなかったんですが。一度クリアしているからか、私が強くなったからでしょうか」
理由は本人にも分からないようだが、もし、それが俺にも当てはまるなら――。
ともあれ、ここまでは前回と一緒だ。
そして、次は俺の番だ――。
「其方は武の力を示した。次は、魔の力を示せ」
赤い壁のあとに青い壁が現れる。
ふぅと深呼吸。
一週間の修業を思い出す。
毎日魔力がゼロになるまで、無属性魔法を使いまくった。
【無限の魔蔵庫】が空っぽになるなんて、エムピーと出会ってから初めてのことだ。
1日60,000MP。
魔力量だけで言えば、シャノンさんの一月分だ。
この一週間でAランク冒険者半年分以上の修業ができたのだ。
しかも――。
無属性魔法の数少ない使い手であるシャノンさん。
血の滲む努力で付与魔法を鍛え上げたナミリアさん。
最高の二人に指導してもらったんだ。
絶対に成功してみせる。
現在、貯まっている魔力は5万MP。
前回のリンカの【弐之太刀】でのダメージを想定した魔力量――それに余裕を持たせた分だけある。
後は上手く、無駄なく魔法を撃てるかどうか。
俺の実力次第だ。
もちろん、失敗したからってなにかがあるわけではない。
もっと魔力を溜めてから、リトライすれば良いだけだ。
だけど――無様な姿は見せられない。
笑って感謝の気持ちを二人に伝えたい。
「行くよ。絶対に成功させる」
気持ちを切り替えるためにも宣言する。
二人の前に出て、俺はシャノンズロッドを前に構える。
目を閉じて、一度深く息を吸い込んだ。
集中。集中。集中。
静寂が俺の肌から広がっていく――。
身体の中から湧き上がる魔力を。
腕へ。
手へ。
指先へ。
そして――ロッドへ。
魔力がロッドの先端にたどり着いた瞬間。
指がそっとなにか柔らかいものに触れた感覚。
それと同時にロッドの先に小さな光の粒が生まれる。
魔力の流れとは逆に、ロッドから体内に暖かいものが流れ込んでくる。
流し込む魔力に比べてわずかなものだが、それは杖に込められたシャノンさんの魔力だ。
――杖の名前はシャノンズロッド。レンレンは使うたびに私のことを思い出すの。私だと思って、大切に扱って欲しいの。
彼女が言っていた通り、これなら忘れることはない。
杖の先端には小さな光の球が現れる。使用する魔力が増えるたびに、それはどんどん大きく膨れ上がる。
今回の修行で、【無属性魔法LV2】の他にふたつの魔法を購入した。
そのひとつが【魔法操作LV3】だ。
これの効果で通常より魔力を効率的に光球に変換できる。
加えてシャノンズロッドだ。
他の魔法の杖は使ったことがないから比較対象がないが、シャノンズロッドは驚くほどスムースに魔力を伝達する。
まるで指先が伸びたかのよう。
ロッドが身体の一部に感じられる。
ロッドに流す魔力を増やしていく。
100
200
……
1,000
ロッドの先端が強い光を発する。
それでも、リンカが感じたような直感はまだ生じない。
2,000
3,000
……
9,999
杖の先には直径30センチほどの魔力光。
ここまで1分。
修行開始当時はここまで10分かかった。
魔力を使い切った俺は――。
『――【
魔蔵庫から体内に魔力を流す。
流れる魔力はそのまま杖の先へと向かう。
これでさらに魔力が注入できる。
が。
俺はそれと同時に、もうひとつの秘策を使う――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『フラニスの試練、再度(2)』
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